あらかじめ決められた恋人たちへ-20th BEST-

ベストアルバム『あらかじめ決められた恋人たちへ -20TH BEST-』
発売記念インタビュー
「20年目のあら恋」
Vol.4 オータケコーハン×GOTO×ベントラーカオル

あらかじめ決められた恋人たちへ オータケコーハン×GOTO×ベントラーカオル

2015年5月にGOTO、ベントラーカオルが加入したことで、あら恋は現在の7人体制となった。リアレンジ/新録音が施されたベストアルバムにおいても、現在のメンバーが持つスキルや熱量にフォーカスがあてられた内容となっている。あら恋史上、最大の“バンド感”を宿した作品といっても過言ではないわけだが、そこにはGOTO、ベントラーカオル、そして2011年から参加しているオータケコーハンのプレイは欠かせないものだ。別バンドやソロでも精力的に活動している3人に、あら恋とはどのような存在なのか聞いてみた(取材・文 森樹)

ダブだとかレゲエだとか関係なくて、「あら恋だ」って言えるような音楽性がある(オータケ)

あらかじめ決められた恋人たちへ オータケコーハン

―― この3人の中ではオータケさんが古参ですけど、そもそもは「ラセン」のギターに参加したのがきっかけですよね。

オータケ そうですね。「ラセン」でギターを……まあその当時、あら恋のマネージメントをやっていた人が紹介してくれて。たぶん池永さんに、「いいギターいるよ」みたいな感じで、「入れてみたら?」という助言をしたんじゃないかなと。それでいきなり池永さん家に行って、「ここの場面で弾いてみて」みたいな(笑)。

――いきなりな感じで(笑)。

オータケ で、とりあえず思うがままに弾いて。そしたら、いつのまにか完成していて。

――気付いたら音源になってた?

オータケ そう。音源になってて。どうやらライブとかでも流してるらしいっていう。オケで(笑)。

――オケでね(笑)。

GOTO ギターをオケで?

ベントラーカオル(以下、カオル) オケで流してましたよ、普通に。

GOTO ライブハウスで?

カオル ライブハウスで。……当時の野外フェスの映像が残ってますね(笑)。

GOTO ギタリストがいないのにギターソロが流れるって不思議ですよね。

――(笑)。

オータケ (笑)。それでまあ、O-nestでワンマン(「Dubbing01」)をやったときに、ゲストで参加して。

――最初はゲストみたいな感じでしたね。

オータケ うん。それからちょっとずつやる曲が増えてって。最初に入ったのがもう6年ぐらい前の話で。

――「ラセン」が収録されている『CALLING』が2011年ですからね。

オータケ そうそう。

――それからはライブのレギュラーメンバーになっていますけど、オータケさんはこれまで複数のバンドをやってきたじゃないですか。それが、あら恋という池永さん主体の、ある種変則的とも言える編成のバンドに参加してみて、どのように感じましたか?

オータケ いや、特に不思議には思わなかったけど……真ん中に、確固たるリーダーの池永さんがいるじゃないですか。バンドではあるけど、自分のやってきた、あーでもないこーでもないとぶつかり合うスタイルとは違うというのはありました。入った当時の感触としては。

――当時は、池永さんがやりたいことを、皆が再現するイメージはありましたよね?

オータケ うん、そう。

――それはだんだん変わってきた?

オータケ 変わってきたと思いますけどね。特に今のメンバーになってからは、より個々のカラーが重要視されてきて。ホント、いわゆるバンドになったんだなあっていう感じが。

――昔ライブハウスで話したときに、「あら恋はダブ/レゲエっぽいから、もっと裏(打ち)っぽいビートで弾けるのかなと思ったら、そうじゃなかった」って言ってたのが印象的で。

オータケ (笑)。結局、裏打ちほとんどないんじゃないかな。まだダブはあるとしても、レゲエ感は……。

GOTO レゲエ感はないですねえ。

オータケ でも、それはいいことですよね。ひとつのジャンルにそうやってカテゴライズできないというか。池永さんの中にすごく独特な、日本的なセンスが含まれているんですよ。だから、もうダブだとかレゲエだとか関係なくて、「あら恋だ」って言えるような音楽性になってきてると思うし、それは素晴らしいことだなと。

劔さんが「ぜひ参加してください」と誘ってくれましたね(カオル)

あらかじめ決められた恋人たちへ ベントラーカオル

――確かに。ではカオルさんとGOTOさんにもお話を伺いますが、あら恋を知ったきっかけって何でしたか?

カオル いつ知ったかはもう覚えてないくらいですね。東京のライブハウスのシーンとか、そういったインディーズの音楽とかにちょっと興味持てば、もう名前ぐらいは絶対知っているくらいの存在で。

――カオルさんが知った頃には、ということですか。

カオル うん、そうですね。実際にライブを観たのはいつだろう……(当時サポートをしていた)LAGITAGIDAとのダブルレコ発をやったときだったか、それ以前にも観ているような気がします。2011年か12年くらい。その頃にはすでにオータケさんはメンバーで。

――ではカオルさんの印象としても、「ダブバンドだ」っていう感じであら恋を捉えていたわけじゃなかったと。

カオル そうですね。だってもう、初めて観た時点で『DOCUMENT』に入ってる曲とかもやってたし、ダブ/レゲエの要素を持ってるエレクトロバンド、みたいなイメージでした。

――GOTOさんは以前やっていたDACOTA SPEAKER.で池永さんにリミックスを依頼していましたが、それ以前から観ていたんですか?

GOTO 普通にファンでしたからね。ライブもよく観に行ってたんですよ、『ラッシュ』が出る前ぐらい。最初は、ファーストアルバムの『釘』をDALLJUB STEP CLUBのベース(BENCH.)から「これかっこいいよ」って借りたのがきっかけで。で、「ライブ観に行こうよ」みたいな感じで、渋谷LUSHや新宿LOFTに遊び行ったり。ライブ終わりに池永さんに話しかけたりして……っていう感じです。

――それから、クリテツさんとライブハウスで出会ったんですよね?

GOTO UHNELLYSのkimさんが主宰しているセッションイベントで知り合って。

――そこからメンバーとして声がかかるのは、結構早かったんですか?

GOTO そうっすね。セッションやったのが2014年の年末で、2015年の年明けぐらいに「叩いてみた」動画(「drumming juke footwork」のこと)を上げたんですけど、どうやらそれを池永さんが観たらしくて。で、今THE DHOLEっていうバンドやってる(小林)樹音くんを通じて連絡が来たんです。「たぶんこの後、池永さんから電話かかってくるよ」と。数分後に電話がかかってきたんですけど、それはもうあら恋への参加依頼でした。

――なるほど。OKって即答したんですか?

GOTO いや、めっちゃテンション上がったんですけど、なんか「ここで喜んだら舐められるな」と思って(笑)。

――(笑)。

GOTO 「ちょっと考えていいっすか?」みたいな(笑)。

オータケ そういうの、大事だよね~。

――(笑)。

GOTO もちろんめっちゃ嬉しかったですけどね。そりゃもうライブ観に行ってた側なんで。とりあえず「一回ちょっと飲み行きたいっすね」ってふたりで飲みに行って。その場でOKを出しました。

――それと前後して、カオルさんにも声がかかったんですよね。

カオル そうですね。たぶん2015年の3月ぐらい。たまたま(ベースの)劔さんに会ったときに声をかけられましたね。

――でもそう考えると、ライブまですぐですよね。2015年の5月には新代田Feverで新体制の初ライブをやってるわけですから。

カオル もう、すぐでしたよ。最初はライブの中で数曲程度、みたいな話だったんですけど、その打ち合わせを池永さんの家で4月ぐらいにやったんですよ。そしたら「この曲どう?」、「この曲もどう?」っていう感じでこう、次々と増えて(笑)。

オータケ、GOTO (笑)。

――「いける?」みたいな。

カオル で、結局「じゃあ全部、やろかっ」っていう感じになったんです。

――西川きよし的な。「やろかっ!」と。

カオル 「やろかっ!」と(笑)。(前任ドラマーの)キムさんが抜けてから2ヶ月ぐらいの間で、ガガッと練習したんです。しかも、新曲も6曲ぐらいやったから。

GOTO こっちからしたらもう、全曲新曲みたいな感じ(笑)。やったことがないし。

カオル 僕に至っては全曲楽譜用意してましたから(笑)。

GOTO さすがに2時間のライブは無理だよね。

カオル しかも覚えてるのは、そのライブの前の週ぐらいにめちゃくちゃ高熱出してて。もうリハもぎっしりあったんで、苦しみながらスタジオに通って。意識もうろうとしながら池永さんと2人でアレンジを詰めたっていう記憶が(笑)。

――なかなかの思い出ですね。

カオル 強烈な思い出になりました(笑)。

――カオルさんもクウチュウ戦をはじめいろんなバンドに関わっていますが、あら恋に参加するのは即答だったんですか?

カオル そのときは自分のバンドを含めて、スケジュールを自分の一存でどうこうできなくなるような状態ではなくて。だからすぐ「やります」って感じには言えなかったんですけど、劔さんが相当食い下がってくれたんで。なので、「本当に参加できるときだけでも頑張ります」って答えました。

――じゃあ劔さんがかなり説得してくれたと。

カオル 劔さんの話しぶりでは、池永さん的にもちょっと迷いがあるような状況だったと思います。「本当にメンバーを増やすべきなんかな?」みたいな。そこを「いや、入れましょう」と言っていたのは劔さんで。僕に対しても「ぜひ参加してください」みたいな感じで誘ってくれましたね。

初ライブのとき僕、足つりましたから(GOTO)

あらかじめ決められた恋人たちへ GOTO

――なるほど。オータケさんだけじゃなくて、カオルさんもGOTOさんもあら恋以外にバンドをやられていますけど、取り組み方の違いとかありますか?

オータケ いやあ、僕はもうどれも同じですね。

――そうなんですね。

オータケ 今となっては。メインとかサブとかっていうのは考えてなくて、自分が主にやってるLAGITAGIDA、sajjanu、あら恋、その3つに関してはなんか本当に……妥協なく楽しんでやれればいいなって思うようになりました。異なる音なんだけど、雑多な自分に引っかかる好きな音楽観がそれぞれにあるので、そこで表現したい演奏や世界観をどのバンドでも悩みながら、それよりも楽しみながら出していければなあと思ってて。

――それは当初から? それとも割と最近?

オータケ ああ、当初からではないですね、それは。

――最初は、あら恋は「居候」って言ってましたもんね。

オータケ うん。Twitterのプロフィールのとこにも、「あら恋(居候)」みたいに書いてた(笑)。最近はそれ外しましたからね。

全員 (笑)。

オータケ 強いて言えば今はソロやってるんですけど、まあそれが一番、軸になって行きたいし、なるだろうなという。

――カオルさんはいかがですか?

カオル うーん……最初の頃とかは本当に、要求されることに応えていくのに精一杯で。結局その感じが去年のアルバム(『After dance/Before sunrise』)にも個人的にはちょっと残ったというか。実際、あのアルバムは僕が弾いた曲も少ないし、自分があら恋の中にいるのかな、という気持ちも含めてふわふわっとしてるところはありました。それが、去年の夏~秋にかけていろんなフェスに出たりする中で、単純にメンバーと一緒にいる時間も増えて。すると、池永さんが何をしたくて、何ができなくて、どこで迷ってるのか、みたいなところとか見えてきて。単に要求に応えるだけでなくて――。

――提案もできれば、みたいな?

カオル 提案もそうだし、池永さんからもこっちに委ねてくれることも増えたんで。そこで関係性は深まってきましたね。

――ライブを重ねていくごとに、なんとなく立ち位置も分かってきたり。

カオル そうですね。よりメンバー感みたいなものが、出てきたのかなあ……とは。入った頃のようなぎこちなさはないかな。

――実際、今回のベストの方が、前のアルバムよりも録音に参加してますもんね。

カオル ほぼ全曲、弾きましたね。

――GOTOさんはどうですか? ふたりとの違いはあったりしますか?

GOTO 僕もまあ、カオルちゃんとほぼ同じみたいな感じですね。前回のアルバムのときって、RECのやり方もこれまでとは全然違ったので。「とりあえずこのパターン録って」みたいな感じなんですよ。

――曲単位じゃない。

GOTO そうそう(笑)。普通に練習してきたものを録るんじゃなくて、練習してないアイディアを何個か録るみたいな。

カオル (笑)。

GOTO それは僕が今まで経験したことがないし、ドラムスタイル的にも、作り込んだものをやるタイプなんです。その場の即興性ってあまり自信がないので。という意味でも、結構あたふたしちゃって録ったっていうのは当時ありました。こっちとしても、「かましてやろう」とは思ってやってるんすけど、レコーディングのやり方がこんなに違うんだなーと思って。だから最初の頃、ライブでも「これで合ってるのかな?」みたいな気持ちはありましたよ。

――そうなんですね。

GOTO しかも基本的にあら恋は音がデカいんで、自然とドラムの音もデカくなっちゃう。そうすると筋肉がヤバくなってきて、初ライブのとき僕、足つりましたから。

――いきなり2時間超えでしたからね。

GOTO そうそう(笑)。体力的にもキツいし、脳的にもキツいし。そこから比べると、最近は自分でも力加減をコントロールできてきたし、音の面でもPAの小泉さんと毎回話し合って。なので、少しずつ良くはなってきてるとは思いますね。だから、ここ最近じゃないっすかね。フェスとか連チャンでやったりとかして、「メンバーなんだな」みたいな(笑)。

――(笑)。

GOTO まあ20年の歴史からすると、僕なんてね、全然(笑)。1/10ぐらいなんで。

――でも今回、そういう意味ではベストは初めてリズム隊が一緒に録ったっていう。

GOTO あ、そうですね。……まあ僕としてはそれが普通だと思ってるんすけど(笑)、初めてとかマジで!?って感じなんですけど(笑)。

全員 (笑)。

――今回はパターン録りっていうよりは、ちゃんと曲として演奏した感じですか?

GOTO いや、パターン録りもありましたよ(笑)。でももう分かってるんで、普通にこなせたところはありますね。こういう「パターン録り」でのレコーディングのことも、もうちょっと考えられるようになったらいいなと思いますね。1個のビートのパターンを複数考えておくってことを。

――他の楽器のレコーディングでもそうなんですか?

オータケ 今でもパターンやフレーズだけ録るのは多いですね。指示も池永さんのイメージなんで。「ウッドストック・フェスのジミヘンが終わって、朝方のゴミ捨て場で寝っ転がってる感じ」とか。

全員 (笑)。

――抽象的な部分が具体的ですね(笑)。

オータケ そうそう(笑)。全っ然わかんないけど、一応、頭の中でイメージしながら弾く、みたいな。

――映像的に表現しますよね。

GOTO 確かに、そうっすね。

初期の曲は、理論とか技術よりも、「作るぞ、やるぞ」っていう意欲がめちゃくちゃ突っ走ってる(カオル)

あらかじめ決められた恋人たちへ 20th BEST

――今回、ベストを出す話って、皆さん結構早めに聞いてたんですか。

GOTO 去年ぐらい。

オータケ 去年の9月だったかな。ツアーの帰りの車の中で話してたんですよ。

GOTO そうか、車の中で「20周年だからなんかやんないんすか?」みたいな話をしてて。

オータケ いろいろアイディアを出してて。

GOTO そこで「いやあ、ベストでしょう」みたいな。

――みなさんとしても、「ベスト、いいんじゃないの」みたいな。

GOTO 「いいんじゃない?」みたいな感じになってて。

オータケ だったような。録り直して、みたいな話もそのときにした記憶がありますね。

――今回、ライブでもずっとやっている「Back」や「前日」などに加えて、現在のバンドでは披露していない初期の楽曲「ハウル風」や「トカレフ」もレコーディングしています。実際弾いてみて、昔の曲にはどのような感想を持ちましたか?

GOTO うーん、土くさい、泥臭い感じはしますね。最近の曲の方が、明るくはないけど、ポップな感じはします。わかりやすいというか。

カオル やっぱり池永さんの、いろんな意味での「若さゆえ」感みたいなのが曲の中で、垣間見える瞬間がありますね。

オータケ あるよねー!  「これ、スゲー音入れてんなあ」みたいなのが。

カオル そうそう(笑)。今回のアルバムでも、「キーボードどうしよっか」つって昔の曲を聴かしてくれたんです。それで俺もどうしよう、みたいな(笑)。何をやっても(音が)ぶつかるなあ、みたいな。

――文法通りに出来ている曲じゃない曲もあったと。

カオル そう。だから最終的に『トカレフ』だけは、僕は弾かなかったんですね。

――なるほど。そこで音を追加しちゃうと。

カオル もう、めちゃくちゃになるな、って(笑)。

――元々、バンドでの演奏を想定していないのもあるんでしょうね。

カオル 初期の曲は、理論とか技術よりも、先んじて創作意欲、「作るぞ、やるぞ」っていう意欲がめちゃくちゃ突っ走ってるんですよ。だからこその良さはあって、そこが今とは違う部分なので面白かったですね。

――昔の曲、例えば『ハウル風』とか、どんな感じでギターとか入れていったんですか?

オータケ 軽く事前に打ち合わせして、「こういう感じだよね」みたいなことは話していて。そこからはスタジオでノリでやってく、みたいな(笑)。さっきごっちゃん(GOTOの愛称)が言ってたようなやり方ですよ。ネタをこうバババッと出してっていうのが半分ぐらいだったかな。昔の曲に関して言うと。

――なるほど。そういえば、『前日』はGOTOさんの提案でBPMが速まったんですよね。

GOTO そうっすね。だいぶ速くなりました。

カオル ライブのたびに劔さんが指ツラそうというか、終わったあと「つった」とか大変そうなんですよ。

―― 一回、手がすごい腫れたらしいですからね。

GOTO ああ、腫れてましたね。

オータケ (突然、手元の水を差して)この水、ワサビの味しない?

GOTO レモンじゃないすか?

オータケ え、レモン(笑)? これ。なんかワサビっぽいんだけど。

GOTO なんでそんな仕掛けを。ひとりだけめっちゃワサビ入ってるみたいなことですか? そんなことしてるわけないでしょ(笑)。

カオル どっちも防腐作用がありますけどね。だから、そう感じても不思議じゃないです。※

オータケ あぁ~なるほど(笑)。

※ちなみにカオル氏からはのちに、「レモンに防腐効果は“あまりない”というのが通例のようです」と丁寧なメールが届きました。

“バンド感”が増せば、“あら恋=池永正二”からいい意味で解放されていく(カオル)

あらかじめ決められた恋人たちへ 20th BEST

――(笑)。では4月にベスト盤がリリースされたあと、ライブも再開されますが、プレーヤーとしてあら恋でやってみたいことなどありますか?

GOTO 「やってみたい」か……。なかなかムズいっすね。音楽面で言うなら……もっとバンド感、みたいな。そういうのがもっとあっても面白そう。少しずつ、バンド感は出てきてるのは確かなんですよ。そこで、もう少しキメとか、逆にスキマとか。あら恋の良さって、グワーって音が迫ってくる感じだと思うんですけど、それはもういつでもできることじゃないですか。逆にスキマとか、良いところでブレイクとかが入れば、もっとサウンド的にも広がってくんじゃないかなって個人的には思います。僕はそういうの好きなんで。スキマがある音楽が。

オータケ 池永さんは最近、周りの意見にオープンになっているところがありますよ。前回のアルバムに「rise」って曲があるんですけど、その当時、アフリカの音楽を結構聴いてて。で、「池永さん、俺こういうのやりたいんですけど」ってギターのカッティングを弾いて聴かせたら、「ええやーん」みたいな感じで。ほかにも、「三拍子、ないですよね」って言ってたのを知ってか知らずか、「月下」で三拍子がポーンと入ってきたりとか。

GOTO ああー、確かにオープンになってるかもしれないですね。

オータケ アイディアがあったら結構提案してますね。だから、メンバーである僕らからもっとこう、アイディアを出して言ってあげて、より池永さんの持っている世界観を広げていければ良いんじゃないかなって思います。次の音源に向けては、それをもっと突き詰めてやろうかなと。

――それは、GOTOさんが語ってくれたバンド感の話に繋がってきますね。今までのように、メンバーとして一線を引くじゃないですけど、バンマスの池永さんのアイディアを具現化していく流れが、もっと相互作用的なものになるという。カオルさん的にはどうですか。

カオル 僕も、今まで出たような“バンド感”の話が……これからのあら恋が展開していくべきことかなと思います。そのことによって、いい意味で「あら恋=池永正二」っていうものからちょっと解放されていくんじゃないですかね。そのことで、池永さんがこれまでにやってなかったことをやれるようになれる気がしますね。

――なるほど。ある程度「あら恋」っていう名前をメンバー全員で支えることによって、池永さんの重荷が取れるようになればと。

カオル そう。あら恋の音楽っていうのが、池永さんが中心ではあるけれど、全員のアイディアのぶつかり合いでできるようなものになったら、より池永さんがひとりでやる意味もでてくる。それくらいソロとバンドの差があっても良いと思います。

――池永さんの中でソロとバンドで別のことができるという確信があれば、変わってきそうですけどね。

カオル そこの価値を認めてくれれば良いと思います。

――ちなみに、今の体制になってから、印象に残っているライブってありますか?

オータケ 印象に残っているライブって、でもなかなかないですねぇ。いや、あんま覚えてないというか。どのライブに関しても言えるけど。

GOTO ライブ自体は一瞬ですからね。

オータケ ね。やってるとき、集中してるし。無我夢中になってるから。

GOTO ライブ中の記憶はあんまりないんですよ。

オータケ そう、残んないですね(笑)。

カオル あら恋は、特に体感時間が短いですから。

オータケ ああー。短いかもね。

僕はホント、池永さんの人間性がすごく好きですよ。そこに尽きる(オータケ)

あらかじめ決められた恋人たちへ 20th BEST

――なるほど。では、最後に言い残したことがあれば。

オータケ でもなんだかんだ言って、僕はホント、池永さんの人間性がすごく好きですよ。そこに尽きるんですよ。だって、ホント不思議ですもん。

――不思議とは?

オータケ なんかたまに、こういう感じで仕事やってて大丈夫かなぁって思う瞬間がある(笑)。

GOTO、カオル (笑)。

オータケ でもなんか、そういうところがみんな好きで一緒に仕事をしたりすると思うんですよ。この前も、池永さんの誘いで、とある映画用の楽曲にギターで参加したんですよ。他の人たちはみなさんスタジオミュージシャンで、しっかりしている人なんですね。スタジオでは「せーの」で一発録りだったんですけど、クリック(テンポを合わせるために使う音)の音声がなぜかごっちゃんの活き活きした声で(笑)。

全員 (笑)。

オータケ 「ワン、トゥー、ワントゥースリーフォ〜!」ってごっちゃんの声で(笑)。

カオル ああ、あら恋のライブで使っている音ですね。

GOTO それ、僕がわかりやすいように自分の声で作ったやつですね。たぶんをそれを使いまわしたんだと思います(笑)。

オータケ それをあら恋で使うのは良いけどねぇ。今ここで使う!?っていう(笑)。みんなもう、笑っちゃってて。「何ですか?今の」みたいな(笑)。僕ももう笑っちゃって全然演奏どころじゃなくなって。でも、それですごく場の雰囲気が和んだ。もちろん、そのクリックはもう二度と流れませんでしたけど(笑)。

GOTO そうなんだ(笑)。

カオル でも、そういう感じの出来事はよくありますよね、池永さん。

GOTO 池永さんらしい。

オータケ まぁそういうところも含めてね、最高だってことですよ(笑)。

「20年目のあら恋」
Vol.3 石本聡×小泉健

ライブでの音作りにおいて欠かせない「PA」。繊細な技術と対応力が必要なポジションであり、バンドによっては、そのサウンドを理解した専属の者を帯同させるケースは少なくない。だがあら恋のように、PA+DUB PAという2人編成を組んで帯同するパターンは、かなり珍しいと言える。『カラ』、『ラッシュ』の発売を手掛けたmaoレーベルのオーナーであり、現在もDUB PAとして参加する石本聡と、メンバーチェンジ以降、あら恋の音作りを任されているPAの小泉健(world’s end girlfriend、Vampilliaなども担当)に、あら恋の“ライブサウンド”について話を伺った(取材・文/森樹、機材紹介コメント/石本聡、小泉健、協力:クリテツ)

あらかじめ決められた恋人たちへ 20th BEST interview PA

ライブサウンドエンジニアとしてのエゴを出さずに、彼らの技量を信じてそのままの音のバランスにすればいい(小泉)

――2015年の4月から新しい体制になり、一発目のライブが同年5月の新代田FEVERだったわけですが、それまでにおふたりでのミーティングや、バンドでの打ち合わせはあったのでしょうか?

小泉 打ち合わせではなかったですが、バンドが練習するスタジオに行って顔合わせはやりましたね。

――そのときに、今回(のライブ)はこういう風にしたいとか、こういう風にする、という方向性のチェックはありましたか?

小泉 その前に池永さんからは、ライブでのサウンドを変えたいと相談されていました。メンバーが増えたこともあり、生音重視の出音のバランスにしていきたい、という話でしたね。しかも新加入メンバーが、DALLJUB STEP CLUBのGOTOくんと、クウチュウ戦の(ベントラー)カオルちゃんということだったので、ライブサウンドエンジニアとしてのエゴを出さずに、彼らの技量を信じてそのままの音のバランスにすればいいと思いました。

石本 メンバーチェンジがあったときに池永くんと話したのですが、モダンなダンスビートにトライしていきたい、という気持ちがあったみたいですね。で、DUB PAとしては、GOTOくんの加入が決まってからふたりでスタジオに入ったんです。ごっちゃん(GOTOの愛称)と僕で機材一式を持ち寄って、どんな感じでやろうかというのを、セッションというわけじゃないですけど、あら恋のトラックを流しながらやりました。

――モダンなダンスビートを構築するべく、試行錯誤を重ねたのでしょうか。

石本 そもそもモダンにしたいというのがあった中で、僕もダブ・ミックスとしていろいろやり方を固めていって、実際にドラムを叩くごっちゃんとすり合わせしていきました。ライブのどのタイミングでどんな音を入れるかとか、ここではこういうテイストで音を響かせたいとか、細かい部分も含めて。ごっちゃんはスネアをふたつ使ってるんですけど、どの曲でどっちを使うかとか、という細かな部分を検証してブラッシュアップをしていきました。

――GOTOさんは、ドラマーとしては前任のキムさんとは真逆なタイプといえますよね。

石本 そうですね。まるで打ち込みみたいなリズム・パターンを得意としてますね。ドラミングに対してのアイディアをすごくたくさん持っている人だし、彼がやっているバンドでは、自分自身でエフェクトをかけたりしてますからね。あら恋でも加入当初は、このパターンのときは僕、こっちのパターンのときはごっちゃん、みたいに役割をふり分けていたんですけど、最終的には僕がすべてエフェクトを担当するようになりました。

朝霧JAMのライブは「まだ伸びしろがある!」と感じて嬉しかった(石本)

あらかじめ決められた恋人たちへ 朝霧JAM PA卓

――カオルさんの加入はサウンドにどのように影響を与えましたか?

石本 鍵盤であるカオルちゃんの役割って、今までは池永くんが操る機材に全部シーケンスとして入っていたので、こっちではノータッチだったんですよ。キーボードにディレイかけたりするのは(ダブ的に)は非常に効果的なことが多いので、カオルちゃんの生演奏が入るようになってからは、バンドの音としては華やかになったんじゃないかと思いますね。

――なるほど。FEVERでの初めてのライブのときは、新曲も5~6曲作って、そのあたりの仕込みも大変だったと思います。新メンバーでのライブで、PAとして新たに小泉さんも加入して、石本さんとしてはどのようにその変化を受け入れましたか?

石本 なんか新鮮だったよね、すごく。あら恋としては20年、バンドになってからも8~9年近くやっているわけだし、普通のバンドだったら安定期というか、成熟していく感じになる。でも、このときのライブは「あ、なんかまだ伸びしろがある!」という気がしてすごく嬉しかった。

――小泉さんは、外からあら恋を見ていたときと、実際PAとして音作りに参加したのでは、バンドに対する感じ方が変わった部分はありましたか?

小泉 あら恋を担当することになったときは、ハードルが高い現場だなぁと思っていました。というのは、僕が入るにあたって、バンドとして求めている音も以前とはだいぶ変わってくる印象はあったので。一方で、お客さんに対してはあまり違和感がないようにもしなければならない、という気持ちもありました。現在のメンバーが活きる要素を新たに加えつつも、絶対的に失ってはならない部分はやはりあるので、バランスを考えてミキシングをしなくてはなりませんでした。最終的には、しっかりやれたと思います。

――そもそも、あら恋は鍵盤ハーモニカやテルミンが使われている、編成が特殊なバンドじゃないですか。それは、一般的なロックバンドとは音作りの面で変わってくるものなのでしょうか?

小泉 うーん、あら恋に限らずですけど、演奏している各メンバーそれぞれがどういう音を作っていくかを理解、解釈すること一番大きいところですね。だから、特別あら恋が、ということはないと思います。

――石本さんはどうですか? 生音+シーケンスだったり、野外でもライブが多かったり、環境の変化にはどのように対処していくのでしょうか。

石本 新しい体制になってから少しの間は、試行錯誤してるなと思いながら見てました。去年(2016年)、夏にフェスが何本が続いたときに、池永くんと小泉さんで、ライブの出音についてお互いの気になってるところをすり合わせたりしていましたしね。その結果、昨秋の朝霧JAMのライブがすごく良かったんですよ。あの日は、ステージ上のメンバーも楽しそうに演奏してたし、お客さんもすごく楽しそうで、PA側もやってて手応えを感じていました。

小泉 そうですね。あの日はメンバー全員もMAXのパフォーマンスだったんじゃないかなと。

石本 あら恋も含めて何十年もバンドに関わってきているけど、ああいうことは年に1回あるかないかだね

――確かに、池永さんも20年やってて一番いいライブだって言っていました。

石本 誰かがすごく良かったと言っても、他の誰かはイマイチ、というのが普通だけど、それがなかったっていうのはよっぽどだよ。

――メンバーチェンジがあってから一年半後の段階で、そこまで持ってこれたと。

石本 前作(『After dance/Before sunrise』)では小泉さんもミキシングエンジニアとしてアルバム制作に加わって、池永さんの音作りに対して理解が深まった部分も大きかったですよね。

小泉 それはありました。

――音を作る時に、池永さんとはどういう話を具体的にされるんですか?

小泉 前回のアルバムに関しては、ライブの生音をどう音源に落とし込むか、ということをひとつのテーマとして進めました。ライブでは、気になるところをその都度話し合うという感じですね。

インスト・バンドなので、どんな場所でも同じクオリティーの演奏と音作りは重要(小泉)

あらかじめ決められた恋人たちへ PA

――機材面については、小泉さんと石本さんが使うもので、あら恋用の特徴的なものがあったりするんでしょうか?

小泉 メンバーのポテンシャル、そして躍動感を出し切れるように、鳴らされたものに対して一番忠実に音を拾うマイクを採用しています。僕はライブにデジタルの機材を持ち込んでいるのですが、それを使って最終的なミックスとしています。使っているのは、『MANLEY STEREO VARIABLE MU』と言うコンプレッサーのプラグインで、これは全体的なサウンドとしてまとまりが出来つつ、躍動感のある音が作れるのであら恋に向いているんです。

石本 PAの方でも、PCを持ち込む人は珍しいんですよ。アナログの実機を持ち込むミキサーさんは多いんですが。でもこれは、実機を再現できるし音も遜色ないし柔軟性もあるので。

――こういうものを持ち込むことで、どんな現場でも可能な限り同じ音で再現できるわけですね。

小泉 そうですね。アプリケーション内で事前に作ってある、あら恋用の音のセッティングをそのまま持ち込んでいます。あら恋をやり始めてからはほぼずっとこれを使っていますね。もちろん、ライブハウスの機材も使いつつですが。メンバーにも話しているんですが、インスト・バンドということもありますので、どんな場所でも同じクオリティーの演奏をして、それを同じクオリティーで音作りをすることが重要なんですよ。あら恋では、サウンドのフォーマット化がある程度出来ているので、現場での準備もスムーズです。

石本 小泉さんがそこまで整えてもらっているので、DUB PAである僕は比較的自由にやってますね。出音をきちんと作ってもらえますからね。

小泉 DUBのPAは、どちらかというとインプロビゼーション(即興)的な要素が強いので、それが面白さでもあり難しさでもあります。

石本 時々、エフェクトの音量が大きすぎるって怒られるんですよ(笑)

――ダブエフェクトの回数は、以前に比べて減ったような気がします。

石本 昔はエフェクト処理の感じがもう少しエクストリームなところがありました。スピーカーが飛ぶんじゃないかというくらいに(笑)。最近は、生演奏とのバランスをきちんと取って音を出すようになったので、その違いはあります。ダブエフェクトをかけるポイントも減ってきてましけど、かけるときはガッツリとここでバン!っといく、みたいな。最近面白かったのは、どこかのライブのときにカオルちゃんが出られなくて、リハで突然「ここはダブでつないどいて下さい」って急に言われてときですね(笑)。

池永さんはあんまり嫌われないんですよね(石本)

ishimoto

――さて、あら恋も今年で20周年ということで、改めて、池永さんの人柄や音楽的な部分での魅力についても話してもらえますか?

小泉 僕は実際に会って話して、見たままの人だなーと思いました(笑)。でも、ライブでは爆発するポイントがあって、それを見て高揚しますし、あたたかい人だなと思います。

石本 こないだオータケ(コーハン)くんと飲んだときに「池永さんはやっぱ人柄ですよ!」って言っててさ。「おれあの人好きだー」って(笑)。昔から愛されキャラだったと思うんだけど、本当、あんまり嫌われないんですよねあの人。

小泉 これは先輩に対して言うのはアレですけど、完全に天然でいじられキャラですよね(笑)。

石本 とにかく高圧的じゃないからいいんだよね。でも楽曲に対してはほんとに譲らない。彼が作品で言いたいことはずっと変わらないじゃないですか。そこがいい。

――コンセプチュアルな要素を大事にしてきたユニットでありながら、ベストアルバムをリリースすると聞いたときはどう思いましたか?

小泉 僕はびっくりしました。

石本 「来年20周年なんですよー」って去年言ってたので、「じゃあベスト盤でも出せば?」とは思っていました。元々、本人もベストについて考えていたとは思いますけどね。でも、ベスト盤を出せるバンドって幸せだと思うんですよ。そんなとこまで行かないでやめちゃうバンドなんていっぱいいますからね。

――じわじわと、なだらかな広がり方をした結果の20年、というのも意味があるかも知れませんね。

石本 ご褒美だなと思いますよ。でも、録り直すとは思ってませんでした。昔からのファンにしてみれば、そのときの音を大事にしてたりすることもあるじゃないですか。なので、時代ごとの音の変遷をまとめるのかと思ったら、「今の感じでやりたい」と。それはカッコイイと思いましたよ。とにかく今すごくまとまってるから。うまいよ、このバンド。

――今年はライブも4月以降に再開される予定ですが、今後のあら恋について、PAのおふたりからメッセージをいただければと。

小泉 とにかく、ライブをもっといろんな人に観てもらいたいですね。国内のみならず、海外のフェスとかも行ってみたいです。

石本 僕は2008年からやってますが、音楽って流行り廃りがあるじゃないですか。ある時期、あら恋がやってることとみんなが聴きたいものとが噛み合った瞬間があったけど、最近はもう少しライトなものをみんなが求めているのかなって気がします。だからって言って、みんなが聴きたいものをやろうとするんじゃなくて、池永ワールドをやってくしかないと思う。そうすれば、いつかまた、噛み合う瞬間がくると思うから。

――なるほど。

石本 これだけユニットとして続けていると、必ずアップダウンがあると思うんですよね。それでもあら恋としてやるべきことをやる、ということが大事なんじゃないかと思います。20年やってきたからこそね。

小泉 やはりメンバーの演奏力はズバ抜けてるんじゃないかなと思いますよ。だからこそ僕もPAとして、どうすれば音が良くなるか、というベクトルに集中できているので。僕はメンバーでありませんが、ライブでは、半分メンバーとして、半分お客さんと同じ目線で音を体感しつつこれからもやっていきたいと思います。

あらかじめ決められた恋人たちへ、そのサウンドを生み出す機材紹介のコーナー
あら恋のPAを務める小泉さん、石本さんに、あら恋で使用している機材を紹介してもらいました!

PA:小泉健使用機材

UAD CONSOLE(PCアプリケーション)
『MANLEY VARIABLE MU コンプレッサー』
MIXがまとまる感じに仕上がりつつ、躍動感が増す印象。
あら恋では2MIXマスターに使用している。

あらかじめ決められた恋人たちへ PCプリセット

SOMMERCABLE(ゾマーケーブル)
『GALILEO 238 PLUS』
最近のケーブルの傾向である解像度が増すだけでなく、音が直線的になるので持ち込み機材に使用。

SOMMERCABLE GALILEO 238 PLUS

『LEWITT DTP64O REX』
2種類の音色を出力できるマイク。会場の環境に合わせて音色をコントロールできる。
もちろん、マイク用専用ケーブルはSOMMER CABLE。

LEWITT DTP64O REX

『SHURE BETA57』(左)『SHURE BETA58』(右)
BETA57は池永氏鍵盤ハーモニカ。BETA58はクリテツ氏 鍵盤ハーモニカ&振り物用マイクに使用。
いろいろ試した結果、定番のマイクが一番バランス良かった。

SHURE-BETA57-SHURE-BETA-58

『sennheiser e606』
ギターのドライブしたうねりがしっかり録れるので、ギターアンプには必ず使用している。

sennheiser e606

『LEWITT MTP240DM』
すっきりした音色なのであら恋では池永氏MCマイクとして使用している。

LEWITT MTP240DM

『FiT EAR 334』
インイヤーモニター(小泉使用)
ライブサウンド、DAW環境でもリファレンスとして使っている。
自分の作業内容がより明確になった印象。

FiT EAR 334

『イヤモニ延長ケーブル』
こちらもSOMMER CABLEを使用

イヤモニ延長ケーブル

DUB PA:石本聡使用機材

『mackie1642VLZPRO』(DUB用ミキサー)

ここにメイン(PA)卓から送られるハイハット/スネア/テルミン/キーボード/ピアニカ等の楽器類とエフェクターが立ち上がる。写真下段はTC ELECTRONIC M350。主にスネア用エフェクトとして使用。「低価格ながら飛び道具としては必要十分なクオリティ」です。

mackie1642VLZPRO

『strymon/el capistan』(テープエコー)

今までさまざまなテープエコーを試してきましたが、これに出会ってからはずっと使っています。とにかく音がいい。そして小さい。小さいのは大事です(笑)。主にテルミン、スネアに使用。

strymonel capistan

『strymon/DIG』(デジタルディレイ)

el capistanの音に惚れ込んでしまったので、デジタルディレイも同じメーカーのものを使用。テープエコーとは異なるぱきっとしたキャラクターで、主にキーボードに使用。

strymonDIG

『strymon/BRIGADEIR』(アナログディレイ)

これはDIGと直列で接続し、曲によってキーボード、スネアなどと使い分けています。上記2つとまた違う個性があり、暴れる感じが欲しいときはこれで。

strymonBRIGADEIR

『BOSS/DD-20、BOSS/PH-3フェイザー』(マルチディレイ)

この二つは直列に繋ぎ、主にハイハットに使用。8分の刻みに16分を載せたり、ハイハットの動きに躍動感を加えたいときはフェイザー単体で使うことも。スネアにかけて打ち込み感をプラスしたりもします。

DD-20

PH-3

「20年目のあら恋」
Vol.2 クリテツ×劔樹人

2008年にあら恋のライブメンバーとなった、テルミン・パーカッション奏者のクリテツと、ベーシストの劔樹人。大阪時代からあら恋を支えていたキム(Dr.)が脱退してからは、ふたりがバンドの最古参メンバーとなった。あら恋に参加してから9年目、バンドメンバーとして酸いも甘いも噛み分けてきたふたりが語る、池永=あら恋の成長と進化とは。「辞める理由がなかったから」に代表される、一見ドライにも見える率直な言葉の裏に、揺るぎないあら恋への愛が滲むインタビューとなった(取材・文/森樹)

あら恋 20th BEST interview クリテツ×劔樹人

あら恋もベースもやめる理由がない

――おふたりはあら恋バンドの古参メンバーとなってしまいましたが、あら恋の音楽や活動について改めて話し合うことってありますか?

クリテツ  うーん、パッと思い出せないですね。ふたりきりではほとんどないんじゃないかな。

ライブ終わりに一緒に帰ることは多いですよ(笑)。ほら、クリテツさんも僕もお酒を飲まないから、打ち上げでも先に帰ることが多くて。

クリテツ 一緒に帰るわずかな時間の中で反省したり、今後のことを話すことはありますけどね。

――おふたりが本格的に参加したのが、池永さんが東京に拠点を移した2008年からです。それから活動を重ねている中で、あら恋の変化を感じることはありますか?

クリテツ 全体的な話でいうと、徐々にプロフェッショナルな流れになってきたかなって。バンドとして頑張って売れていこうという意識ですね。元々ね、友だち付き合いの延長で始めたような気持ちも、加入して2~3年はあったんですよ。

——そこからプロとしての付き合い方に変わったと。

クリテツ そう。

でもそうなると、20年のうち2〜3年は友だち付き合いってことになってしまいますけどね(笑)。僕にとって、池永さんは昔からよく知る人ではあったんですよ。僕が別バンドでも良く出ていた(難波)ベアーズの店員が池永さんでしたからね。その流れもあってバンドに入ったんですけど、しばらくは活動すればするほどしんどくなるような状況が続いたんです。体力的にきつかったですから。それを乗り越えて、ようやくちゃんと気持ちもついていった感じですね。

クリテツ 本当に最初の2年くらいはがむしゃらというか、何であんなに無茶していたんだろうって、今思うとね。

 そうそう。やればやるほどどんどん金もなくなっていくし(苦笑)。

――それと前後して、劔さんは神聖かまってちゃんなど、マネージメント業を兼務するようになるじゃないですか? 両立はかなり大変だったと思いますが、それでもベースを辞めなかった理由は何かありましたか?

両立は本当はよくなかったのかもしれないです。でも、ベースだけはライフワークというか、あら恋以前から、僕は僕で15年変わらずにやってきたことなので。なんというか、しょうがないですよね。あら恋もベースも辞める理由がない。

クリテツ あら恋がひとつのライフワークになっているってこと?

 というより、音楽がライフワークなんですよ、やっぱり。どれだけ演奏に割ける時間が少なくなっても、ベースは辞めようとは思わなかったです。

あら恋の音楽は、映画や芝居の脚本の作り方と考え方が似ている

あら恋 20th BEST interview クリテツ

――話は少し遡りますが、オータケ(コーハン)さんがレギュラーでバンドに加入してから変わったことってありますか?

クリテツ オータケくんと一緒にやるようになったのはいつ頃からだっけ?

――調べたら、2012年のリキッドルーム公演からレギュラーのギターとして参加していますね。13年からは定期的に。

 元々、清水さん(当時のあら恋マネージャー)がオータケくんを誘ったんですよ。「これから大きなフェスやイベントに出るとして、盛り上げるためにはギターがいないとダメだ」ってことで。もちろん、池永さんの意識が少しずつ変わってきていたというのもあります。ベアーズ出身というのもあり、人とは違うことをしなきゃいけないと意識が強いので、当初は頑なにギターをメンバーに入れようとしなかったんですよ。でも、やっていくうちにオータケくんの加入が決まって。それはバンドとしては変化でしたね。

――『CALLING』がリリースされるまでは、ライブはバンドで、録音物はソロで、という意識も池永さんの中で強かったですからね。

クリテツ 池永さんは、頑なだけど何かきっかけがあるとガラっと変えますから。

  やってみたら良かった、というところも大きいと思いますよ。やってみて、馴染んできたら考えを改めるというか。

――例えばバンドで新しいことを始めるとき、おふたりは池永さんから相談を受けたりするんですか?

相談されることはありますよ。ただ、池永さんの中で答えはすでに決まっていますけど。

クリテツ  僕は池永さんと考えがぶつかることが多いんですよ。違う意見を言うと、「うーん、そうやねんけどな」という、“一旦持ち帰ります”的な答えが返ってくる(笑)。

劔  何が一番近いかというと、恋愛相談をする高校生ですよね(笑)。「あの人のこと、良いと思っているんだけどどう思う?」って聞いたときには、すでに答えが決まっているという。やめときなって言われても絶対聞かない(笑)。

――それはソロ活動をしていた頃の名残りなんでしょうか?

クリテツ 池永さん自体が、トライアルアンドエラーの繰り返しなんでしょうね。大学で映像を勉強してたからなのか、やっぱり映画や芝居の脚本の作り方と考え方が似ていると僕は思います。あるフレーズをちょっと変えたかと思うと、突然バッサリ切ることもあるし。何日も練習したのに~みたいに(笑)。一方で、丸ごとこんなシーンが加わるの!?  本番までもう日にちがないのに! てこともありますね。

池永さんは、車をぶつけられても「大丈夫です」って言っちゃう性格

あら恋 20th BEST interview 劔樹人

――あまり話すことはないでしょうけど、クリテツさんから見た劔さんのプレイ、逆に劔さんから見たクリテツさんのプレイにはどのような特徴があると感じていますか?

クリテツ 初期というか、一緒に活動し始めた頃はとにかくベースの音がデカイなって印象でした。轟音というのは当時のバンドの方針ではあったのですが。僕はテルミンという楽器の特性上、モニターの音が大きすぎると自分の音が聴こえなくなってピッチが狂ってしまうんです。そういう、なかなか身体にも負担がかかる時期が何年かあったのですが、最近はようやくバランスが普通になりました。劔くんの演奏自体に対してはなんだろう……特に不満を持ったことはないですね。意外と猪突猛進なプレイなんですよ。あ、あと、J先生(杉作J太郎氏)のサイン入りベースアンプが重い(笑)。アレとドラムを車に積むときが大変です。

クリテツさんの音の印象ですか……とにかく、いろいろやる人ですよね。音楽的にも偏差値が高くて、キム(前ドラマー)とやっていた頃は小難しいことをすべてクリテツさんに任せていました。そのスタンスは今も変わってないかな。あら恋のライブアレンジ面はクリテツさんが担っている要素も大きいですよ。

――「キオク」に収録された「Going」のように、バンドを意識しつつもハウス路線にいったことがありましたよね。クリテツさんがライブでもシンセサイザーを担当されていた頃です。あの頃はバンドとしても転換期だったのでしょうか?

クリテツ 音楽的には一番試行錯誤した時期だったかな。

 そうですね。池永さんが「ダンス・ミュージック」と言い始めて。だけど、キムはそういうジャンルが得意ではなかったんですよね。それはキムの悩みにもなって。GOTOくんに交代したことで、ダンス・ミュージックという部分はより明確になった感じですよね。ちょうど「Going」はその過渡期の楽曲で。

クリテツ キムとGOTOくん、どっちの時期もやっているしね。

――それから2015年に、キムさんが脱退されることになりました。

 脱退から2年経つのかな。

クリテツ 早いねぇ~!

――脱退自体はスムーズに決まったんですか?

 いや、池永さんは引き止めていたと思いますよ。

クリテツ でも、キムはキムで一度決めたことは譲らなかった。

――とはいえ、発表自体がわりとあっさりしたものだったので、驚きました。

 池永さんは、未だに1人でやっている感覚が抜け切れてないというのもあるんでしょうね。引き止めはしたけども、基本的には去るものは追わずなんですね。そうなったらそうなったで、大ごとにはしたくないんですよ。タイプ的には、車をぶつけられても「大丈夫です」って言っちゃう性格なので(笑)。

クリテツ 良いように解釈すれば、そういう美学なんです。もちろんキムが辞めたことで離れたファンもいるし、逆にGOTOくんが入ったことで新たにファンになってくれた人たちもいる。僕自身もファンだったバンドにメンバーチェンジがあると、「えー」となるので、ファンの人たちの気持ちもわかる。ただそこで止まっていられないというのもありますから。

バンドの雰囲気は、全日本プロレスから新日本プロレスに変わったみたいな感じ

あら恋 20th BEST interview クリテツ

――それからGOTOさん、ベントラーカオルさんの加入が発表されて。

 GOTOくんはクリテツさんが見つけてきたんですよ。

クリテツ ウーネリーUHNELLYSのkimさんが主宰するセッションイベントがあって、そこで知り合ったんです。ごっちゃん(GOTOの愛称)はあら恋のファンでもあったので話は早かったですね。キムとはタイプも違うし、合わせるまではどうなるかわからなかったけど、やってみたら「良いんじゃない」ってことで加入が決まりました。

 一方で、ベントラーカオルは僕が誘ったんですよ。

クリテツ そうだったんだ?

 知人から聞いた経済学的な概念なんですけど、人が減ったときは、その減ったときよりも人を増やすのがセオリーだという考え方があるそうなんです。それはなるほどなと思って。だったら、この機会にドラムを入れるだけではなく、思い切ってキーボードも新たに入れてみようと。その中で名前が挙がったのがカオルくんだったんです。

――どうしてカオルさんだったんですか?

レゲエの人を入れるのは違うかなというのはあったんですね。池永さんがベアーズ出身だし、どちらかと言えば東京のインディー~アンダーグラウンドなシーンの人が良いと思って。

クリテツ ジャンルよりも、マインドが合うか合わないかの問題ですよ。

 そう、マインドは大きいですね。

――劔さんはベーシストとして、GOTOさんのプレイというのはどのように捉えていますか?

キムはパワーがありましたからね。そのときは、グルーヴ感と気合いの相関関係を突き詰めていた時期だったんですけど、それは止めました。

――そこはドラマーありきな部分が大きいということでしょうか?

そうですね。GOTOくんになって、よりビートに対してジャストになるように意識したんですけど。それがなかなか難しい。なぜかというと、GOTOくんがドラムになってから、池永さんがいろいろな曲のスピードを速めたんですよね。

クリテツ そうそう(笑)。

 速いほうがGOTOくんのノリに合うってことで。

クリテツ 特に「前日」はスピードアップしたので。あの曲、劔さんのベース・ソロがあるんですよ。ただでさえ指弾きだからしんどいソロなのに、テンポも上がるという。

 あの曲はねぇ、スゴいんですよ。ほとんど指が休むことなく、ずっと速いBPMで7〜8分やり続ける。あれは気合が必要ですね。しかも盛り上がる曲なので、大体ステージの後半で披露するからキツい。昔、ワンマンの時、手が1.5倍くらいになったことがあるんですよ、腫れて。

——池永さんも言ってました。

 すごい負担なんでね。あれはビックリしましたよ。でも、演奏的には力任せでいくのはやめたんです。GOTOくんのドラムに合わせて。キムのときは、あのパワーに負けないように気合いでいくしかなかったんで。

――カオルさん、GOTOさんが加入してから1年半以上経ちましたが、あら恋の音は変わってきたと思いますか?

クリテツ カオルちゃんももともとは暴れる人だし、GOTOくんもプレイ的にもビジュアル的にも華があるんで、より明るい感じにはなりましたね。オータケくんも加入して数年が経ち、いよいよギターヒーロー然としてきてますよね。髪の毛ファサーみたいな(笑)。

新日本プロレスみたいな感じですよね。

クリテツ あぁ、確かに全日本プロレスから新日本プロレスに変わったみたいな感じはというのはあるよね。元々は、国際プロレスみたいなバンドでしたけどね(笑)。

――エンターテイメント感、メジャー感がより出てきたってことですかね。

クリテツ うん。でも、贅沢な悩みですけど、僕はもうちょっと暗い感じでゴォっといけたらという気持ちもあったり。もし今のメンバーで暗い感じになったら、すごく面白いなって。

 どんどんフレッシュにはなっていますよね。

クリテツ でも、あんまりオレたち演奏に関しては俯瞰で見ていないよね。

  いや、そんなこともないですよ。

クリテツ そうなの? 劔くんは黙々とやっているイメージが。

うん。それはそのほうがバランスが取れるからですよ。昔はね、あら恋のハードコアバンド的なところを僕が担っていた部分もあったんですけど、今は黙々とやっていますね。

クリテツ  僕はもっと前に出てほしいですけどねぇ。というか、みんな前に出れば良いんですよ。今以上に(笑)。

キャリアを重ねるごとに曲のテンポが速くなってるのは、僕らとラモーンズくらいですよ

あら恋 20th BEST interview 劔樹人

――さて、ではベストアルバムのお話も。20周年ベストを作る話はいつ頃から?

クリテツ  去年の後半くらい?

  20周年というのも最近明らかになったくらいですからね。

――普通、20周年のベストと言ったら、過去の曲をそのまま収録するものですが、敢えて全曲リアレンジ、新録音になっています。

クリテツ 僕は新曲を入れたい気持ちもありましたね。ちょっと違うことをしたいなって。

――新録音では、ドラムとベースを初めて一緒にレコーディングしたそうですが、全然違いましたか?

クリテツ あれによってリズム隊の親睦がより深まったんじゃないですか?

 親睦というか、やれることはだいたいやれた感じですね。

クリテツ 12月はライブも多かったんですけど、劔くんとごっちゃんのレコーディング期間でもあったので、演奏がやたらタイトになった印象がありましたね。

 でも、久々にやった「トカレフ」とか、完全に忘れていましたね(笑)。フレーズも、昔のものとは勝手に変わっちゃっているんじゃないかな。あら恋の場合、レコーディングのときは曲が完成していないうちに録音するんですよ。いろんなテイクを録って、そこから池永さんが編集していくので。だから、レコーディングして出来上がったものを、ライブ用にまた直していくみたいな感じなんですね。昔の音源を久々に聴くと、今ライブでやっているフレーズとはけっこう違うんです。でも、無理やり昔の感じに戻すのではなく、今の感じを大事にしました。

クリテツ メロディーとかも、昔と違う部分もありますからね。ライブでやって、最終的に曲が完成していくというか。

——「ハウル風」とか、これまで演奏したことってあるんですか?

クリテツ あれは『ラッシュ』のときに一度だけやったんですよ。

 あのとき一回だけですね。

クリテツ すごく久し振りで。新曲やっているのと同じですよ。

――もともと、11曲で70分も超えるアルバムになる予定だったのですが、BPMが速くなったことで、60分くらいにまとまったみたいです。

クリテツ そうなんだ? あら恋は 1曲が6~7分あるからね。

 曲が速くなるだけでそんなにも違うんですね。

クリテツ 『シン・ゴジラ』の会議のシーンと一緒じゃないですか(笑)。詰め込んで濃縮させる感じ。キャリアを重ねるごとに曲のテンポが速くなってるのは、僕らとラモーンズくらいですよ、きっと(笑)。普通は遅くなっていくから

 どっしりしていきますからね。まああら恋の場合は、メンバーチェンジによって平均年齢は下がりましたからね。

クリテツ 結局、池永監督とキャストみたいな感じですから、キャストのメンツで変わっていくところは大きいですよ。

たぶん、20年やっているバンドにしては瑞々しい

あら恋 20th BEST interview クリテツ×劔樹人

――ライブでいうと、去年の朝霧JAMで大トリを飾られたじゃないですか。池永さん的にもかなり手応えのあったライブのようでした。

クリテツ お客さんも多かったですし、盛り上がりましたね。現在の編成でのベストな演奏はできたかなと。僕も年齢が年齢だし、身体的にも急激にガタがきてもおかしくないんですよ。いつ演奏ができなくなるかわからないから、これが最後のライブになるかもという気持ちで一回一回のライブに取り組んでいますね。悔いの残らないように

 えー、そんなこと考えてたんですね。

クリテツ そりゃあいちいち言わないよ(笑)。でも、後悔のないように全力でやってます。

――劔さんもお子さんが生まれて、生活状況はかなり変わりましたよね?

クリテツ メンバーの中でも、一番激動じゃないですか。

 いやー、みんなには迷惑をかけてしまっていますけどね。でももっと気持ちを自由にして、初心に返っていけたらなと。あら恋20周年の節目にね。

クリテツ 暴れてくださいよ。

――まだまだあら恋も、最近流行の文章系日本語バンドにカテゴライズされているくらいですから。

 それだけが何かね、もっと頑張らないとって思う部分ですね。20年目なのに、まだまだもの珍しく語られているわけじゃないですか。もちろん、あら恋のポジションというか、環境が変わったのはあると思うんです。個人的には、「想い出波止場」とか、「溶け出したガラス箱」とか「5つの赤い風船」みたいな、アングラポップ/フォーク時代から脈々と受け継がれてきたものの流れを引き継いでいるのが「あらかじめ決められた恋人たちへ」なのかなと。

クリテツ でも、逆に流行の中に入っているということは、チャンスということでいいんじゃないの? 確かに、いまだに名前で聴かず嫌いの方もいるでしょうけど、損しているところも得してるところもどっちもあるでしょうから。

――ベストがリリースされた後は、ライブも再開されます。ベストもリリースされたということで、昔のお客さんも新規のお客さまも来てくださるかもしれません。ライブに向けての意気込み、アピールポイントをお願いします。

クリテツ 新しい体制になってからもうすぐ2年です。今回のベストは、曲もバラエティーに富んでいるので、一曲一曲が見どころと言っても大袈裟ではないと思います。照明も気合いが入っていますし、PAも2人いる。めちゃめちゃ過剰サービスですよね(笑)。

 毎回のライブがね、予算度外視ですから(笑)。

クリテツ 「閉店します!」ってずっと貼り紙してるお店みたいなサービスですよ(笑)。プロレスで例えるなら、電流爆破蛍光灯ピラニアデスマッチくらいのものになっているので。率直にいうと、辞める機会を失った僕たちとしては、今後も何かに突き動かされるように活動し続けるだけですね。

 名前でいろいろとイメージされる部分は多いと思います。でも、そこを乗り越えて、まだあら恋を聴いたことがないって人たちに聴いてもらいたい気持ちはありますね。たぶん、20年やっているバンドにしては瑞々しいかも。

クリテツ 池永さんみたいに、ぐるぐる思考を巡らせて、ああでもないこうでもないと試行錯誤する人が、宝石のような音楽を生み出す不思議は、まだまだいろんな人に聴いてもらいたいですね。ベストも、家でじっくり聴くもよし、パーティーでかけるもよし。ライブの時もスピーカーの前で聴くのもいいですしね。踊っても騒いでも、好き勝手に楽しんでもらえればと思います。

「20年目のあら恋」
Vol.1 池永正二

90年代後半、大阪芸術大学と難波ベアーズという特殊な磁場を通じて生まれた池永正二のユニット、あらかじめ決められた恋人たちへ。拠点も大阪から東京に、メンバーもソロから7人へと時代の流れと共に大きく変動し、拡大を続けてきた彼ら。2017年、ユニット結成20周年を記念し、ついにベストアルバムが発売されることになった。だが、ベストでありながら、全曲リアレンジ/新録音を行うという一筋縄ではいかない内容となっている。公式ホームページでは計4回にわたり現メンバーのインタビューを掲載していくが、まずはベストアルバムの発案者であり、あら恋のリーダーである池永正二のインタビューをお届けする。ベストを出す意味、そして選ばれた12曲について。公式ホームページなので、フレッシュでリアルな関西弁のままの池永語録をご堪能いただきたい。(取材・文 森樹)

あらかじめ決められた恋人たちへ

プロローグ:過去を振り返ることで先が見えると思った

――ベストアルバムの完成、おめでとうございます。まず、20周年記念プロジェクトとして、ベストアルバムをリリースしようとしたのはなぜですか?

池永 元々、あら恋ってベストを出すようなバンドじゃないって思ってたし、そもそもベスト出すまで続くとは考えてもなかった。20周年でベスト出すって、「明日、オレ誕生日やねん」ってアピールするみたいで恥ずいやん(笑)。でも、最近の世の中が「次へ次へ」の時代やんか。闇雲に進化を求めて前を向いていけ!ついてこられへん奴は切り捨て!現状維持も四捨五入で置き去り!みたいな。そういう流れから、逆に昔のものにこそ未来のヒントがあるというか、過去を丁寧に振り返ることで今の現状、そしてこの先のことが見えてくるんじゃないかなと思って。単に「あの頃は良かった」みたいな礼賛じゃなく、何が良かったのか、実際何をしていたのかを追っていこうと。とにかく、自分のやってきたことを振り返ってこそわかることがあるし、次が見えて来るのではと。じゃあ、ただ振り返るだけじゃなく過去に作った曲を今の感覚でもう一度アレンジ、新たに録音したニューアルバムを制作しようと思って。

――あら恋としては、2015年にキムさん(Dr)が脱退するという出来事がありましたが、それが過去を振り返るきっかけになったりしたんですか?

池永 うーん、あんまり関係ないかな。あら恋はずっとメンバーが出たり入ったりしてきたからね。このバンドでやっていこう!ってはじめたユニットじゃないから。初期のバンドのライブとかは、いろんな人に参加してもらう感じやったからね。そういうスタンスの名残が今も続いている感じで。

――わりと最近は固定されてますけど、基本的にそのスタンスは変わってないですか?

池永 バンドはバンドやけどね。でもうちはメンバーが主役ってよりも、音楽が主役って考えで。このメンバーで生み出している音楽を広めていきたいのはもちろんやけど、それはこのメンバーで出している音楽が素晴らしいと思ってるから。良い音楽ができればメンバー個々の人気も仕事も入ってきて、他の仕事で培ったものがあら恋にもフィードバックされて、それでまた人気も仕事も入ってきて、って循環が理想かな。

――なるほど。キムさん脱退のあと、新メンバーとしてGOTOさんに加え、ベントラーカオルさんが加入しました、おふたりが入って1年半以上経過しましたが、バンドとしてしっくりきた感覚ってあるんでしょうか?

池永 うん。むちゃくちゃ良い状態。アルバム作ってライブ重ねるとバンドってやっぱり成長するんやね。元々あら恋にこの人の要素が欲しい!って思って誘ってるから、初めて一緒にやったときからしっくりはきてる。GOTOくんがネットで上げていたドラムの演奏動画を見たとき、生であんなビート叩けるヤツがおるんや! って感動したもん。人って、ここまで出来るんや、って(笑)。あら恋として新しいことできるって思った。

――GOTOさんの出会いは、新しい展開においては大きかったと。

池永 うん、大きかった。考えてみれば、昔からいろんなジャンルの人がその要素を持ち込んできてくれたのがあら恋という側面もあって。だって、昔はRAZORS EDGE(大阪のスラッシュ/ハードコアバンド)の吉條くんや、千住(宗臣)くんとかにも参加してもらってたり。曲が同じでも演奏する人によって全然違ってくるんよね。その面白さってバンドにこだわらないからこそ体験できた感覚で。そういうワクワクする感覚がGOTOくんやカオルちゃんにもあった。

――そういうイメージというか、ビジョンが見えていたんですね。

池永 そうじゃないと、俺は奥手やから声掛けられへん(笑)。呼んであかんかったら「やっぱすいません」というのは性格的に無理やから。だから、脳内ではふたりはとっくにあら恋で演奏してたんよ。誘う以前にGOTOくんのバンド(DACOTA SPEAKER.)のリミックスをやってるし、カオルちゃんもLAGITAGIDA(オータケコーハンをリーダーとする超攻撃的インスト・ロックバンド)のサポートで入ってるときにあら恋と一緒にツアーしてるから、その人柄を知ってたのも大きいかな。

――実際、おふたりが参加したことで、あら恋の演奏は安定してますよね。

池永 今、ほとんどトラックなしの生演奏やからね。すごいよ。特殊な音楽集団みたいになってるから。昔なんて、演奏は飲んでやるもんだと思ってたし、実際、リハ終わったら難波ベアーズの近所にある大国町の王将行って餃子食べて飲んで本番して飲んで打ち上げ行ってまた飲む、みたいな。それが普通とは違うってわかるのには10年かかった(笑)。

あらかじめ決められた恋人たちへ

リアレンジだけどメロディは変えない。それが基本

――では、そろそろベストアルバムの話に入りましょう。今回、アルバムは12曲収録ということで。

池永 そうそう。最初11曲やったんやけど、真ん中にインタールード欲しいなと思って、「翌日」という曲のイントロを使った「翌々日」を最後に追加して。

――ということで今回は、ファーストアルバム『釘』から順番に、収録された曲についてコメントをもらおうと思います。その『釘』からは「ハウル風」が選ばれました。この曲は当時から代名詞的な楽曲で、CD-Rシングルとして販売もされています。

池永 そう、CD-Rで。あら恋をはじめて間もない頃は、MDとかカセットテープとかでアルバム作ってたんですよ。ひとつひとつダンボール切ってラッカーでペイントした手作りジャケットも付けて。あと、ループテープっていって、10分くらいのテープのA面B面をオートリバースで繰り返して延々聞けるやつとか。「ハウル風」って、鍵盤ハーモニカを使って作ったはじめての曲で。今回、アレンジし直したけど、めっちゃ難しかった。たぶん、コード知らんかったからやと思う(笑)。

――確かに、今回のアルバムで久々に「ハウル風」を聴いたとき、複雑なメロディだなと思いました。『釘』をリリースした当時は、よくラストに演奏していましたよね。

池永 そうやね。エンドロールみたいな曲やったから。

――今回やり直した理由は?

池永 当時の代表曲なんで収録しようと思ったんやけど、録音したときのデータがもうなくて。ハードディスクって、パタって倒れたらあかんね。壊れます(笑)。だからゼロから作り直してます。まぁ、作り直せってことやったんでしょ(笑)。

――今回、リズム隊は生でやっていますね。

池永 そう。昔は全部打ち込みやったから、それだけでもだいぶ印象は違ってるよ。元々、「ハウル風」は全然違う形で作り直そうとしてて。でも、なんかリミックスみたいになってしまって、それは良くないなと思ったから、あくまでリアレンジでまとめました。メロディは変えない。それがベストの基本にもなって。

――なるほど。続くセカンドアルバム『ブレ』からは、オープニングに入っている「ヤナガ」と、「迷いの灯」が選ばれています。「迷いの灯」はメロウな一曲ですが、これは全体のバランスを考えてのセレクトですか?

池永 ベストやけど、一枚のアルバムとして全体の構成を考えて作ったから。そのへんは、いつものアルバム制作と変わらないというか。セレクトするにおいて想い入れのある曲っていうのはもちろんやけど、想い入れのある曲ばかり並べても「想い出のアルバム」にしかならないからね。当時、『ブレ』からよくライブで演奏してたのは「ハンドル」とか「カナリヤ」やけど、構成的に入らなくて。「迷いの灯」に関しては、曲タイトルそのまんまで、当時めっちゃ迷ってたし、ブレてて。でも優しい曲をやりたいというイメージはあったと思う。迷っているのを優しく描くみたいな。

――そういう意味では「迷いの灯」もそうですが、「ヤナガ」も優しく軽やかなDUBソングで。

池永 これはヤナガくんという、当時の友達が亡くなってしまって。だからちょっと明るく楽しげな曲にしたいなと作りました。一曲目にしたのも、楽しく、明るく、優しい雰囲気ではじめたいなと思ったからで。「ヤナガ」をMONOでミックスして、そこから「Back」でステレオになって轟音で巻き戻り、そこからアルバムがはじまる。そのイメージがまず思い浮かんで、仮でデモ作ってみたら想像以上にグッときたんで、これは良いアルバムになる!って思いました。このオープニングの流れが一番聴いてもらいたいポイントかも。ウォーってなるよ。思わず聴きながらビール買いに行ってしもたもん。

あらかじめ決められた恋人たちへ

「トカレフ」は、これからやっていきたい方向性の楽曲

――そこからボロフェスタとの共同イベントや、池永さんが上京するといった出来事も経て、2008年に『カラ』が発売されます。これは現在もDUB PAとして参加している石本(聡)さんのレーベル「mao」からリリースされていて。このアルバムからは「トカレフ」が収録されました。これはバンド体制での活動を本格化させてからもけっこう演奏されていた曲で。

池永 そうそう。でも、この曲も構成にハマったからというのは大きいかな。当初はやっぱり、よく演奏していた「よく眠る」とか「トオクノ」を入れようと思ったけど、アルバムとして並べたときに間延びして。単純に曲として良いし、代表曲と言えるけど、「よく眠る」だったら「ラセン」とか、そこから繋がっていく曲は収録されているから。でも、「トカレフ」みたいな映像的な物語のあるサウンドで、骨太なDUBっていうのは最近やってなくて。でも、これからちょっとこういう方向性もやりたいという気持ちがあって、取り上げた感じかな。

――先を見据える上で、やっておきたい一曲だったと。

池永 うん。「トカレフ」ってタイトルは、阪本順治監督の映画から借用していて。その辺もあら恋っぽいしね。そう、それでこの前「おおさかフィルムフェスティバル」(『味園ユニバース』で受賞)の授賞式に佐藤浩市さん(『トカレフ』の主演)が来てたんです。そのときに挨拶させてもらって、CDを渡すことができて。好きでやってたら繋がるんやなーってグッときたんやけど、『カラ』は持ってなくて(笑)。

――いつそういうタイミングがあるかわからないから持っておきましょうよ(笑)。

池永 いやでもさすがに『カラ』は持ち歩かないからさぁ……(笑)。でも気持ちを伝えることはできてよかったです。次からはベストがあるから大丈夫(笑)。

――それからライブ音源を再編集した『ラッシュ』もリリースされて、フェスとかにも出るようになりますよね。山中湖であった「sense of wonder」、小さいステージでしたけどトリだったときのライブが抜群のパフォーマンスだったのを覚えてます。

池永 そう! あのライブでバンドがグッと変わった感はあった。「sense of wonder」
を機にツインPAスタイルになったしね。そういえば松野(絵理)さんも来てくれていたのに、動かせる照明はひとつもなくて、手で直接ライトを動かしてもらってたっていう(笑)。そういう意味でも、今の体制のベースになっているのはあの日のライブやし、あそこからいろんな人に関わってもらえるようになった気がする。今考えると、ものすごく大きいポイントやったね。

あらかじめ決められた恋人たちへ

“呼びかけて、呼び返してもらう”関係性を作っていきたい

――2010年にはワンマンライブシリーズ「Dubbing」がスタートして、そして2011年、『CALLING』が発売されます。これはPOPGROUP Recordingsからのリリースで、現在のあら恋の代表曲である「Back」、「ラセン」が収録されています。

池永 この2曲は、ストレートにあら恋っぽい曲なんやろね。今回のベストでは「Back」は生音感が強まっていて、BPMも少し速くなってる。基本的に、GOTOくんが叩いて気持ちいい速さを活かしていて。「ラセン」がテンポそのままなのも、それが理由。

――この2曲は今でもパフォーマンスされる楽曲ですけど、お客さんの反応が良い、という実感はあったんですか?

池永 あったあった。俺はそんな変わった感じはなかったんやけど。劔くんも、「これいいですね!」って感想をくれたし。とにかくお客さんには受けたっていう感覚はありましたよ。だから以降の曲は、意識的にか無意識的にか、「Back」と「ラセン」の影響はあると思う。

――なるほど。ちなみに本作の最後には「calling」も収録されています。これは池永さんにお子さんが生まれたときに作られた曲でしたよね?

池永 そうそう。それと(東日本)大震災もきっかけで。親子の関係でも、バンドとお客さんとの関係でも何でもいいんやけど、優しく呼びかけたり、呼びかけられたりという関係が重要だと考えていて、今もずっとそのモードは続いてる状態。昔はもっと声にならない声を「ウォー!」って叫んで、刹那的というと言い過ぎかもしれんけど、少なくとも呼びかける系では決してなくて、鬱屈した気持ちが強かったんやけど。震災があってからはそういう気持ちをそのままぶつけるのは違うかなと。根本的に表現したいものは変わってないけど、そのアウトプットの仕方としては“呼びかけて、呼び返してもらう”ようなものを求めてる。これまでの曲とは違って、「calling」は結婚式でやれるような曲やね(笑)。

――そこからオータケくんが入って、FUJIROCKをはじめとする様々なフェスに出ている中で、「今日」というロング・シングルがリリースされました。ベストには「前日」が収録されています。

池永 「Back」、「ラセン」、「前日」というのは繋がっている感じがする。この曲はもうちょっとコンパクトにまとめられればぁと思って、今回はイントロも切って短くしています。GOTOくんが「ドラムンベースは171っすよ~」ってことでBPMも速くなってます。劔くんはベース指弾きやからこの曲は大変で、苦労してますね。そういえば、一回ライブ終わりにグローブみたいに手が腫れたときがあって。あんなに人間の手は腫れるんやなと感心しました。見せたかったよ。って何の話や(笑)。

――(笑)。続くアルバム『DOCUMENT』からは、「Res」が入りました。明るく激しい、踊って泣ける一曲ですよね。

池永 『DOCUMENT』を制作していたときの状況や姿勢とかが、一番出てる楽曲かな。高揚感があって激しくて、でもちょっとセンチメンタルな感じもあって。激しいのになんか情緒があるっていうのが日本的なサウンドやなって、改めて制作してみて思った。テルミンのソロがあったり、バンドとしてのあら恋が良い感じでまとまったきたイメージが「Res」にはありますね。

――『DOCUMENT』にはインスト版が収録されて、のちにライブDVDとCDの2枚組でリリースされた『キオク』に収録されている「Fly feat.吉野寿」も、今回用にリアレンジされました。ボーカルはそのままですよね。

池永 吉野さんのボーカルはそのままですね。アレンジはけっこう変わってます。「瞬間」というサビ前の歌詞でストンと音を落としていて、グッと嚙みしめるように発せられる言葉の雰囲気を大事にしていて。前のアレンジではこれ、そこまで響いてこなかったんです。本来そうするべきだったことが今になってやっと分かりました。ブレイクの静寂をここまで溜めるのってあんまりないんやろうけど、それがポストロックというか(笑)。そういう過剰にしてしまうのがあら恋ってところはあるんやろうね。この曲は映画『武曲 MUKOKU』(熊切和嘉監督)のエンディングとして使ってもらってるんだけど、歌詞や音楽がすごく映画に染み込んでます。劇伴もやったんですけど『武曲 MUKOKU』、むちゃくちゃいいですよ。楽しみにして欲しいです。

――そして最新アルバム『After dance/Before sunrise』からは「gone.feat曽我部恵一」が選ばれました。

池永 「トカレフ」の後に流れる「gone」もグッとくるんですよ。重苦しい後にファって開ける感じ。でも去っていく。アレンジは原曲に比べて音数も減っていて大分変わりました。トロピカルハウス寄りかな。できてないけど(笑)。良い感じに仕上がりました。

あらかじめ決められた恋人たちへ -20th BEST-

最後に:「あら恋ってどれから聴いたらいいんですか?」ってときに、自信を持ってこのアルバムを薦めたい

――近年、映画の劇伴を何本か経験しましたが、それがアレンジに与える影響はありましたか?

池永 むちゃくちゃあるよ。今回だと「トカレフ」が一番その影響は大きいかな。映画の『武曲 MUKOKU』に、途中で嵐のシーンがあるんやけど、元々ビートで持っていく形の2回目のサビを、ビートの代わりに嵐の音でアレンジしました。環境音も楽器としてアレンジに組み込むやり方って、映画からの影響です。映画の作業の中でMAって言って、映像に音楽や環境音、セリフをミックスしていく作業があるんだけど、これで映画全体のイメージが全然変わってくる。足音の質感から後ろの方で鳴ってる水滴の音までびっくりするくらい細かくデザインしていくから、ほんと勉強になります。例えば、夏っぽい風の音ってあるんよ。どんな音やねん!って言われると説明できないけど、聴いたら、確かに夏っぽいって思うくらい。映画は時間軸のある物語だから、あるシーンを気持ち良く音楽で盛り上げたら、次のシーンが盛り上がってるのに落差でちょっと盛り下がって見えたり、なるほどーって思う。つまりは、どこのポイントに焦点を持っていくか。それってアルバム全体や曲の構成でも同じで、サビで盛り上がりすぎたら間奏が持たないからもう少しあっさりさせて、2回目のサビまで溜めて溜めてドカーン!とか。もう終わりやろ、って思わせといてあと2回畳みかけたりとか。とにかく曲しかりアルバムしかり、あら恋のそういう構成は映画音楽の要素からフィードバックされてると思う。

――だから、今回のベストアルバムにも「翌々日」のようなインタールードが存在して。

池永 そうやね。「ハウル風」のイントロの、「黄泉の国」的な音って、「翌々日」の、いろいろあったねー感の後に鳴ってこそ響いてくるんですよ。そしてビートが入ってパッて場面が転換して、歩き出す、みたいな。「ラセン」のあとだと「コーン、コーン」って鳴ってるだけであんまり響いてこなかってんな。

――今回のアルバムを通してきくと、「ヤナガ」ではじまり、「calling」で終わるんですけど、それがすごくダビーな印象を与えてくれるんですよ。結果的に、叙情派DUBバンドとしての所信表明に聴こえるような内容になっていますね。

池永 そういうつもりで作ってなかったから、でも確かにそう聴こえるね。いろいろ回り道してこねくり回して出てきた結果だから、そういうことなんかもね。

――それと共に、バンドがどんどん規模を拡大する過程が刻まれていると思います。

池永 そう思われると嬉しいかな。単純に良いアルバムでしょう(笑)?

――やっぱり「ハウル風」とか「トカレフ」とか、今のメンバーで過去の曲をやり直したものが特にグッとくるなと思いました。新曲はどこかに入るかと思ったんですけど。

池永 新曲が入ってるベストアルバムって、それもうベストアルバムじゃないからね(笑)。作ろうかなーって思ってんけどね。でもここはリアレンジに力を注ごうと思って。昔の曲も、あんまりアレンジを変えすぎなくて良かったと思ってて。まったく新しいことやるんなら新曲でやった方が伝わると思うし。原曲の良さをどう今の向かっているところに拡大するかって方向で考えました。

――ああ、確かにアレンジは変わっている部分はありますが、聴きざわりは変わらないように配慮されますもんね。

池永 前の方が良かったってなったら絶望やもんね。「あら恋ってどれから聴いたらいいんですか?」って言われたときに、自信を持ってこのベストを薦められる内容にしたかったし、なったと思う。薦めたい。大きく変わった点としたら、以前に増してバンドサウンドになった点かな。今回はベースとドラムを一緒にレコーディングしてるし。全体通してあんまり編集してないんですよ。それに生アンプの待機音や生ノイズはなるべく活かす方向で作ってて。より生っぽく仕上がっていると思う。

――mixは今回、西岡正通さんが手掛けていますね。

池永 前作のマスタリングをやってもらったんやけど、今回はmixもお願いして。全体的に、音を丸くしたいというイメージがあって。トゲトゲしているよりも丸くて迫力のある感じ。ノイズもあるけど、耳が痛い感じにしたくないというか。ノイズでも痛い、痛くないってあるやん?

――ああ、Merzbowはクールで無機質なノイズだけど、K.K.NULLはちょっとあたたかくて肉体的、みたいな?

池永 そうそう(笑)。ピキーンと来る感じにはしたくないし、あら恋はちょっとあたたかい方向性かなと。

――ベストアルバムの次は何を考えていますか?

池永 海外にトライしたい。鍵盤ハーモニカとテルミンが主旋律で、DUBサウンドで轟音で踊れるインストって海外見回してもないんちゃうかなと思って。あと、人と違うことをやろうってところからあら恋になって、あら恋っぽいカラーも続けていく中で見つかり出して、うち特有の根幹ってなんかあるんやと思う。それはベスト作ってみてわかった。あら恋節ってやっぱりあるよ。だから次も作れると思う。なんか別のことをしたいとは思うけど、「誰が作ったのか分からないどこかの誰かの曲」ではなく、何をやっても「あら恋が作ったあら恋の曲」が作れる気がします。って、まだ作ってないので弱気なんやけど(笑)。

2017.4.5 リリース