ライブでの音作りにおいて欠かせない「PA」。繊細な技術と対応力が必要なポジションであり、バンドによっては、そのサウンドを理解した専属の者を帯同させるケースは少なくない。だがあら恋のように、PA+DUB PAという2人編成を組んで帯同するパターンは、かなり珍しいと言える。『カラ』、『ラッシュ』の発売を手掛けたmaoレーベルのオーナーであり、現在もDUB PAとして参加する石本聡と、メンバーチェンジ以降、あら恋の音作りを任されているPAの小泉健(world’s end girlfriend、Vampilliaなども担当)に、あら恋の“ライブサウンド”について話を伺った(取材・文/森樹、機材紹介コメント/石本聡、小泉健、協力:クリテツ)
発売記念インタビュー
Vol.4 オータケコーハン×GOTO×ベントラーカオル
2015年5月にGOTO、ベントラーカオルが加入したことで、あら恋は現在の7人体制となった。リアレンジ/新録音が施されたベストアルバムにおいても、現在のメンバーが持つスキルや熱量にフォーカスがあてられた内容となっている。あら恋史上、最大の“バンド感”を宿した作品といっても過言ではないわけだが、そこにはGOTO、ベントラーカオル、そして2011年から参加しているオータケコーハンのプレイは欠かせないものだ。別バンドやソロでも精力的に活動している3人に、あら恋とはどのような存在なのか聞いてみた(取材・文 森樹)
Vol.2 クリテツ×劔樹人
Vol.1 池永正二
ダブだとかレゲエだとか関係なくて、「あら恋だ」って言えるような音楽性がある(オータケ)
―― この3人の中ではオータケさんが古参ですけど、そもそもは「ラセン」のギターに参加したのがきっかけですよね。
――いきなりな感じで(笑)。
――気付いたら音源になってた?
――オケでね(笑)。
ベントラーカオル(以下、カオル) オケで流してましたよ、普通に。
GOTO ライブハウスで?
カオル ライブハウスで。……当時の野外フェスの映像が残ってますね(笑)。
GOTO ギタリストがいないのにギターソロが流れるって不思議ですよね。
――(笑)。
――最初はゲストみたいな感じでしたね。
――「ラセン」が収録されている『CALLING』が2011年ですからね。
――それからはライブのレギュラーメンバーになっていますけど、オータケさんはこれまで複数のバンドをやってきたじゃないですか。それが、あら恋という池永さん主体の、ある種変則的とも言える編成のバンドに参加してみて、どのように感じましたか?
――当時は、池永さんがやりたいことを、皆が再現するイメージはありましたよね?
――それはだんだん変わってきた?
――昔ライブハウスで話したときに、「あら恋はダブ/レゲエっぽいから、もっと裏(打ち)っぽいビートで弾けるのかなと思ったら、そうじゃなかった」って言ってたのが印象的で。
GOTO レゲエ感はないですねえ。
オータケ でも、それはいいことですよね。ひとつのジャンルにそうやってカテゴライズできないというか。池永さんの中にすごく独特な、日本的なセンスが含まれているんですよ。だから、もうダブだとかレゲエだとか関係なくて、「あら恋だ」って言えるような音楽性になってきてると思うし、それは素晴らしいことだなと。
劔さんが「ぜひ参加してください」と誘ってくれましたね(カオル)
――確かに。ではカオルさんとGOTOさんにもお話を伺いますが、あら恋を知ったきっかけって何でしたか?
――カオルさんが知った頃には、ということですか。
――ではカオルさんの印象としても、「ダブバンドだ」っていう感じであら恋を捉えていたわけじゃなかったと。
――GOTOさんは以前やっていたDACOTA SPEAKER.で池永さんにリミックスを依頼していましたが、それ以前から観ていたんですか?
――それから、クリテツさんとライブハウスで出会ったんですよね?
――そこからメンバーとして声がかかるのは、結構早かったんですか?
――なるほど。OKって即答したんですか?
――(笑)。
オータケ そういうの、大事だよね~。
――(笑)。
――それと前後して、カオルさんにも声がかかったんですよね。
――でもそう考えると、ライブまですぐですよね。2015年の5月には新代田Feverで新体制の初ライブをやってるわけですから。
オータケ、GOTO (笑)。
――「いける?」みたいな。
――西川きよし的な。「やろかっ!」と。
GOTO こっちからしたらもう、全曲新曲みたいな感じ(笑)。やったことがないし。
カオル 僕に至っては全曲楽譜用意してましたから(笑)。
GOTO さすがに2時間のライブは無理だよね。
カオル しかも覚えてるのは、そのライブの前の週ぐらいにめちゃくちゃ高熱出してて。もうリハもぎっしりあったんで、苦しみながらスタジオに通って。意識もうろうとしながら池永さんと2人でアレンジを詰めたっていう記憶が(笑)。
――なかなかの思い出ですね。
――カオルさんもクウチュウ戦をはじめいろんなバンドに関わっていますが、あら恋に参加するのは即答だったんですか?
――じゃあ劔さんがかなり説得してくれたと。
初ライブのとき僕、足つりましたから(GOTO)
――なるほど。オータケさんだけじゃなくて、カオルさんもGOTOさんもあら恋以外にバンドをやられていますけど、取り組み方の違いとかありますか?
――そうなんですね。
――それは当初から? それとも割と最近?
――最初は、あら恋は「居候」って言ってましたもんね。
全員 (笑)。
オータケ 強いて言えば今はソロやってるんですけど、まあそれが一番、軸になって行きたいし、なるだろうなという。
――カオルさんはいかがですか?
――提案もできれば、みたいな?
――ライブを重ねていくごとに、なんとなく立ち位置も分かってきたり。
――実際、今回のベストの方が、前のアルバムよりも録音に参加してますもんね。
――GOTOさんはどうですか? ふたりとの違いはあったりしますか?
――曲単位じゃない。
カオル (笑)。
GOTO それは僕が今まで経験したことがないし、ドラムスタイル的にも、作り込んだものをやるタイプなんです。その場の即興性ってあまり自信がないので。という意味でも、結構あたふたしちゃって録ったっていうのは当時ありました。こっちとしても、「かましてやろう」とは思ってやってるんすけど、レコーディングのやり方がこんなに違うんだなーと思って。だから最初の頃、ライブでも「これで合ってるのかな?」みたいな気持ちはありましたよ。
――そうなんですね。
――いきなり2時間超えでしたからね。
――(笑)。
――でも今回、そういう意味ではベストは初めてリズム隊が一緒に録ったっていう。
全員 (笑)。
――今回はパターン録りっていうよりは、ちゃんと曲として演奏した感じですか?
――他の楽器のレコーディングでもそうなんですか?
全員 (笑)。
――抽象的な部分が具体的ですね(笑)。
――映像的に表現しますよね。
初期の曲は、理論とか技術よりも、「作るぞ、やるぞ」っていう意欲がめちゃくちゃ突っ走ってる(カオル)
――今回、ベストを出す話って、皆さん結構早めに聞いてたんですか。
オータケ 去年の9月だったかな。ツアーの帰りの車の中で話してたんですよ。
GOTO そうか、車の中で「20周年だからなんかやんないんすか?」みたいな話をしてて。
オータケ いろいろアイディアを出してて。
GOTO そこで「いやあ、ベストでしょう」みたいな。
――みなさんとしても、「ベスト、いいんじゃないの」みたいな。
オータケ だったような。録り直して、みたいな話もそのときにした記憶がありますね。
――今回、ライブでもずっとやっている「Back」や「前日」などに加えて、現在のバンドでは披露していない初期の楽曲「ハウル風」や「トカレフ」もレコーディングしています。実際弾いてみて、昔の曲にはどのような感想を持ちましたか?
カオル やっぱり池永さんの、いろんな意味での「若さゆえ」感みたいなのが曲の中で、垣間見える瞬間がありますね。
オータケ あるよねー! 「これ、スゲー音入れてんなあ」みたいなのが。
カオル そうそう(笑)。今回のアルバムでも、「キーボードどうしよっか」つって昔の曲を聴かしてくれたんです。それで俺もどうしよう、みたいな(笑)。何をやっても(音が)ぶつかるなあ、みたいな。
――文法通りに出来ている曲じゃない曲もあったと。
――なるほど。そこで音を追加しちゃうと。
――元々、バンドでの演奏を想定していないのもあるんでしょうね。
――昔の曲、例えば『ハウル風』とか、どんな感じでギターとか入れていったんですか?
――なるほど。そういえば、『前日』はGOTOさんの提案でBPMが速まったんですよね。
カオル ライブのたびに劔さんが指ツラそうというか、終わったあと「つった」とか大変そうなんですよ。
―― 一回、手がすごい腫れたらしいですからね。
オータケ (突然、手元の水を差して)この水、ワサビの味しない?
GOTO レモンじゃないすか?
オータケ え、レモン(笑)? これ。なんかワサビっぽいんだけど。
GOTO なんでそんな仕掛けを。ひとりだけめっちゃワサビ入ってるみたいなことですか? そんなことしてるわけないでしょ(笑)。
カオル どっちも防腐作用がありますけどね。だから、そう感じても不思議じゃないです。※
オータケ あぁ~なるほど(笑)。
※ちなみにカオル氏からはのちに、「レモンに防腐効果は“あまりない”というのが通例のようです」と丁寧なメールが届きました。
“バンド感”が増せば、“あら恋=池永正二”からいい意味で解放されていく(カオル)
――(笑)。では4月にベスト盤がリリースされたあと、ライブも再開されますが、プレーヤーとしてあら恋でやってみたいことなどありますか?
オータケ 池永さんは最近、周りの意見にオープンになっているところがありますよ。前回のアルバムに「rise」って曲があるんですけど、その当時、アフリカの音楽を結構聴いてて。で、「池永さん、俺こういうのやりたいんですけど」ってギターのカッティングを弾いて聴かせたら、「ええやーん」みたいな感じで。ほかにも、「三拍子、ないですよね」って言ってたのを知ってか知らずか、「月下」で三拍子がポーンと入ってきたりとか。
GOTO ああー、確かにオープンになってるかもしれないですね。
オータケ アイディアがあったら結構提案してますね。だから、メンバーである僕らからもっとこう、アイディアを出して言ってあげて、より池永さんの持っている世界観を広げていければ良いんじゃないかなって思います。次の音源に向けては、それをもっと突き詰めてやろうかなと。
――それは、GOTOさんが語ってくれたバンド感の話に繋がってきますね。今までのように、メンバーとして一線を引くじゃないですけど、バンマスの池永さんのアイディアを具現化していく流れが、もっと相互作用的なものになるという。カオルさん的にはどうですか。
――なるほど。ある程度「あら恋」っていう名前をメンバー全員で支えることによって、池永さんの重荷が取れるようになればと。
――池永さんの中でソロとバンドで別のことができるという確信があれば、変わってきそうですけどね。
――ちなみに、今の体制になってから、印象に残っているライブってありますか?
GOTO ライブ自体は一瞬ですからね。
オータケ ね。やってるとき、集中してるし。無我夢中になってるから。
GOTO ライブ中の記憶はあんまりないんですよ。
オータケ そう、残んないですね(笑)。
カオル あら恋は、特に体感時間が短いですから。
オータケ ああー。短いかもね。
僕はホント、池永さんの人間性がすごく好きですよ。そこに尽きる(オータケ)
――なるほど。では、最後に言い残したことがあれば。
――不思議とは?
GOTO、カオル (笑)。
オータケ でもなんか、そういうところがみんな好きで一緒に仕事をしたりすると思うんですよ。この前も、池永さんの誘いで、とある映画用の楽曲にギターで参加したんですよ。他の人たちはみなさんスタジオミュージシャンで、しっかりしている人なんですね。スタジオでは「せーの」で一発録りだったんですけど、クリック(テンポを合わせるために使う音)の音声がなぜかごっちゃんの活き活きした声で(笑)。
全員 (笑)。
オータケ 「ワン、トゥー、ワントゥースリーフォ〜!」ってごっちゃんの声で(笑)。
カオル ああ、あら恋のライブで使っている音ですね。
GOTO それ、僕がわかりやすいように自分の声で作ったやつですね。たぶんをそれを使いまわしたんだと思います(笑)。
オータケ それをあら恋で使うのは良いけどねぇ。今ここで使う!?っていう(笑)。みんなもう、笑っちゃってて。「何ですか?今の」みたいな(笑)。僕ももう笑っちゃって全然演奏どころじゃなくなって。でも、それですごく場の雰囲気が和んだ。もちろん、そのクリックはもう二度と流れませんでしたけど(笑)。
GOTO そうなんだ(笑)。
カオル でも、そういう感じの出来事はよくありますよね、池永さん。
GOTO 池永さんらしい。
オータケ まぁそういうところも含めてね、最高だってことですよ(笑)。
Vol.3 石本聡×小泉健
ライブでの音作りにおいて欠かせない「PA」。繊細な技術と対応力が必要なポジションであり、バンドによっては、そのサウンドを理解した専属の者を帯同させるケースは少なくない。だがあら恋のように、PA+DUB PAという2人編成を組んで帯同するパターンは、かなり珍しいと言える。『カラ』、『ラッシュ』の発売を手掛けたmaoレーベルのオーナーであり、現在もDUB PAとして参加する石本聡と、メンバーチェンジ以降、あら恋の音作りを任されているPAの小泉健(world’s end girlfriend、Vampilliaなども担当)に、あら恋の“ライブサウンド”について話を伺った(取材・文/森樹、機材紹介コメント/石本聡、小泉健、協力:クリテツ)
ライブサウンドエンジニアとしてのエゴを出さずに、彼らの技量を信じてそのままの音のバランスにすればいい(小泉)
――2015年の4月から新しい体制になり、一発目のライブが同年5月の新代田FEVERだったわけですが、それまでにおふたりでのミーティングや、バンドでの打ち合わせはあったのでしょうか?
――そのときに、今回(のライブ)はこういう風にしたいとか、こういう風にする、という方向性のチェックはありましたか?
石本 メンバーチェンジがあったときに池永くんと話したのですが、モダンなダンスビートにトライしていきたい、という気持ちがあったみたいですね。で、DUB PAとしては、GOTOくんの加入が決まってからふたりでスタジオに入ったんです。ごっちゃん(GOTOの愛称)と僕で機材一式を持ち寄って、どんな感じでやろうかというのを、セッションというわけじゃないですけど、あら恋のトラックを流しながらやりました。
――モダンなダンスビートを構築するべく、試行錯誤を重ねたのでしょうか。
――GOTOさんは、ドラマーとしては前任のキムさんとは真逆なタイプといえますよね。
朝霧JAMのライブは「まだ伸びしろがある!」と感じて嬉しかった(石本)
――カオルさんの加入はサウンドにどのように影響を与えましたか?
――なるほど。FEVERでの初めてのライブのときは、新曲も5~6曲作って、そのあたりの仕込みも大変だったと思います。新メンバーでのライブで、PAとして新たに小泉さんも加入して、石本さんとしてはどのようにその変化を受け入れましたか?
――小泉さんは、外からあら恋を見ていたときと、実際PAとして音作りに参加したのでは、バンドに対する感じ方が変わった部分はありましたか?
――そもそも、あら恋は鍵盤ハーモニカやテルミンが使われている、編成が特殊なバンドじゃないですか。それは、一般的なロックバンドとは音作りの面で変わってくるものなのでしょうか?
――石本さんはどうですか? 生音+シーケンスだったり、野外でもライブが多かったり、環境の変化にはどのように対処していくのでしょうか。
小泉 そうですね。あの日はメンバー全員もMAXのパフォーマンスだったんじゃないかなと。
石本 あら恋も含めて何十年もバンドに関わってきているけど、ああいうことは年に1回あるかないかだね
――確かに、池永さんも20年やってて一番いいライブだって言っていました。
――メンバーチェンジがあってから一年半後の段階で、そこまで持ってこれたと。
小泉 それはありました。
――音を作る時に、池永さんとはどういう話を具体的にされるんですか?
インスト・バンドなので、どんな場所でも同じクオリティーの演奏と音作りは重要(小泉)
――機材面については、小泉さんと石本さんが使うもので、あら恋用の特徴的なものがあったりするんでしょうか?
石本 PAの方でも、PCを持ち込む人は珍しいんですよ。アナログの実機を持ち込むミキサーさんは多いんですが。でもこれは、実機を再現できるし音も遜色ないし柔軟性もあるので。
――こういうものを持ち込むことで、どんな現場でも可能な限り同じ音で再現できるわけですね。
石本 小泉さんがそこまで整えてもらっているので、DUB PAである僕は比較的自由にやってますね。出音をきちんと作ってもらえますからね。
小泉 DUBのPAは、どちらかというとインプロビゼーション(即興)的な要素が強いので、それが面白さでもあり難しさでもあります。
石本 時々、エフェクトの音量が大きすぎるって怒られるんですよ(笑)
――ダブエフェクトの回数は、以前に比べて減ったような気がします。
池永さんはあんまり嫌われないんですよね(石本)
――さて、あら恋も今年で20周年ということで、改めて、池永さんの人柄や音楽的な部分での魅力についても話してもらえますか?
石本 こないだオータケ(コーハン)くんと飲んだときに「池永さんはやっぱ人柄ですよ!」って言っててさ。「おれあの人好きだー」って(笑)。昔から愛されキャラだったと思うんだけど、本当、あんまり嫌われないんですよねあの人。
小泉 これは先輩に対して言うのはアレですけど、完全に天然でいじられキャラですよね(笑)。
石本 とにかく高圧的じゃないからいいんだよね。でも楽曲に対してはほんとに譲らない。彼が作品で言いたいことはずっと変わらないじゃないですか。そこがいい。
――コンセプチュアルな要素を大事にしてきたユニットでありながら、ベストアルバムをリリースすると聞いたときはどう思いましたか?
石本 「来年20周年なんですよー」って去年言ってたので、「じゃあベスト盤でも出せば?」とは思っていました。元々、本人もベストについて考えていたとは思いますけどね。でも、ベスト盤を出せるバンドって幸せだと思うんですよ。そんなとこまで行かないでやめちゃうバンドなんていっぱいいますからね。
――じわじわと、なだらかな広がり方をした結果の20年、というのも意味があるかも知れませんね。
――今年はライブも4月以降に再開される予定ですが、今後のあら恋について、PAのおふたりからメッセージをいただければと。
石本 僕は2008年からやってますが、音楽って流行り廃りがあるじゃないですか。ある時期、あら恋がやってることとみんなが聴きたいものとが噛み合った瞬間があったけど、最近はもう少しライトなものをみんなが求めているのかなって気がします。だからって言って、みんなが聴きたいものをやろうとするんじゃなくて、池永ワールドをやってくしかないと思う。そうすれば、いつかまた、噛み合う瞬間がくると思うから。
――なるほど。
小泉 やはりメンバーの演奏力はズバ抜けてるんじゃないかなと思いますよ。だからこそ僕もPAとして、どうすれば音が良くなるか、というベクトルに集中できているので。僕はメンバーでありませんが、ライブでは、半分メンバーとして、半分お客さんと同じ目線で音を体感しつつこれからもやっていきたいと思います。
あらかじめ決められた恋人たちへ、そのサウンドを生み出す機材紹介のコーナー
あら恋のPAを務める小泉さん、石本さんに、あら恋で使用している機材を紹介してもらいました!
PA:小泉健使用機材
UAD CONSOLE(PCアプリケーション)
『MANLEY VARIABLE MU コンプレッサー』
MIXがまとまる感じに仕上がりつつ、躍動感が増す印象。
あら恋では2MIXマスターに使用している。
SOMMERCABLE(ゾマーケーブル)
『GALILEO 238 PLUS』
最近のケーブルの傾向である解像度が増すだけでなく、音が直線的になるので持ち込み機材に使用。
『LEWITT DTP64O REX』
2種類の音色を出力できるマイク。会場の環境に合わせて音色をコントロールできる。
もちろん、マイク用専用ケーブルはSOMMER CABLE。
『SHURE BETA57』(左)『SHURE BETA58』(右)
BETA57は池永氏鍵盤ハーモニカ。BETA58はクリテツ氏 鍵盤ハーモニカ&振り物用マイクに使用。
いろいろ試した結果、定番のマイクが一番バランス良かった。
『sennheiser e606』
ギターのドライブしたうねりがしっかり録れるので、ギターアンプには必ず使用している。
『LEWITT MTP240DM』
すっきりした音色なのであら恋では池永氏MCマイクとして使用している。
『FiT EAR 334』
インイヤーモニター(小泉使用)
ライブサウンド、DAW環境でもリファレンスとして使っている。
自分の作業内容がより明確になった印象。
『イヤモニ延長ケーブル』
こちらもSOMMER CABLEを使用
DUB PA:石本聡使用機材
『mackie1642VLZPRO』(DUB用ミキサー)
ここにメイン(PA)卓から送られるハイハット/スネア/テルミン/キーボード/ピアニカ等の楽器類とエフェクターが立ち上がる。写真下段はTC ELECTRONIC M350。主にスネア用エフェクトとして使用。「低価格ながら飛び道具としては必要十分なクオリティ」です。
『strymon/el capistan』(テープエコー)
今までさまざまなテープエコーを試してきましたが、これに出会ってからはずっと使っています。とにかく音がいい。そして小さい。小さいのは大事です(笑)。主にテルミン、スネアに使用。
『strymon/DIG』(デジタルディレイ)
el capistanの音に惚れ込んでしまったので、デジタルディレイも同じメーカーのものを使用。テープエコーとは異なるぱきっとしたキャラクターで、主にキーボードに使用。
『strymon/BRIGADEIR』(アナログディレイ)
これはDIGと直列で接続し、曲によってキーボード、スネアなどと使い分けています。上記2つとまた違う個性があり、暴れる感じが欲しいときはこれで。
『BOSS/DD-20、BOSS/PH-3フェイザー』(マルチディレイ)
この二つは直列に繋ぎ、主にハイハットに使用。8分の刻みに16分を載せたり、ハイハットの動きに躍動感を加えたいときはフェイザー単体で使うことも。スネアにかけて打ち込み感をプラスしたりもします。
Vol.2 クリテツ×劔樹人
2008年にあら恋のライブメンバーとなった、テルミン・パーカッション奏者のクリテツと、ベーシストの劔樹人。大阪時代からあら恋を支えていたキム(Dr.)が脱退してからは、ふたりがバンドの最古参メンバーとなった。あら恋に参加してから9年目、バンドメンバーとして酸いも甘いも噛み分けてきたふたりが語る、池永=あら恋の成長と進化とは。「辞める理由がなかったから」に代表される、一見ドライにも見える率直な言葉の裏に、揺るぎないあら恋への愛が滲むインタビューとなった(取材・文/森樹)
あら恋もベースもやめる理由がない
――おふたりはあら恋バンドの古参メンバーとなってしまいましたが、あら恋の音楽や活動について改めて話し合うことってありますか?
劔 ライブ終わりに一緒に帰ることは多いですよ(笑)。ほら、クリテツさんも僕もお酒を飲まないから、打ち上げでも先に帰ることが多くて。
クリテツ 一緒に帰るわずかな時間の中で反省したり、今後のことを話すことはありますけどね。
――おふたりが本格的に参加したのが、池永さんが東京に拠点を移した2008年からです。それから活動を重ねている中で、あら恋の変化を感じることはありますか?
——そこからプロとしての付き合い方に変わったと。
劔 でもそうなると、20年のうち2〜3年は友だち付き合いってことになってしまいますけどね(笑)。僕にとって、池永さんは昔からよく知る人ではあったんですよ。僕が別バンドでも良く出ていた(難波)ベアーズの店員が池永さんでしたからね。その流れもあってバンドに入ったんですけど、しばらくは活動すればするほどしんどくなるような状況が続いたんです。体力的にきつかったですから。それを乗り越えて、ようやくちゃんと気持ちもついていった感じですね。
クリテツ 本当に最初の2年くらいはがむしゃらというか、何であんなに無茶していたんだろうって、今思うとね。
劔 そうそう。やればやるほどどんどん金もなくなっていくし(苦笑)。
――それと前後して、劔さんは神聖かまってちゃんなど、マネージメント業を兼務するようになるじゃないですか? 両立はかなり大変だったと思いますが、それでもベースを辞めなかった理由は何かありましたか?
クリテツ あら恋がひとつのライフワークになっているってこと?
劔 というより、音楽がライフワークなんですよ、やっぱり。どれだけ演奏に割ける時間が少なくなっても、ベースは辞めようとは思わなかったです。
あら恋の音楽は、映画や芝居の脚本の作り方と考え方が似ている
――話は少し遡りますが、オータケ(コーハン)さんがレギュラーでバンドに加入してから変わったことってありますか?
――調べたら、2012年のリキッドルーム公演からレギュラーのギターとして参加していますね。13年からは定期的に。
――『CALLING』がリリースされるまでは、ライブはバンドで、録音物はソロで、という意識も池永さんの中で強かったですからね。
劔 やってみたら良かった、というところも大きいと思いますよ。やってみて、馴染んできたら考えを改めるというか。
――例えばバンドで新しいことを始めるとき、おふたりは池永さんから相談を受けたりするんですか?
クリテツ 僕は池永さんと考えがぶつかることが多いんですよ。違う意見を言うと、「うーん、そうやねんけどな」という、“一旦持ち帰ります”的な答えが返ってくる(笑)。
劔 何が一番近いかというと、恋愛相談をする高校生ですよね(笑)。「あの人のこと、良いと思っているんだけどどう思う?」って聞いたときには、すでに答えが決まっているという。やめときなって言われても絶対聞かない(笑)。
――それはソロ活動をしていた頃の名残りなんでしょうか?
池永さんは、車をぶつけられても「大丈夫です」って言っちゃう性格
――あまり話すことはないでしょうけど、クリテツさんから見た劔さんのプレイ、逆に劔さんから見たクリテツさんのプレイにはどのような特徴があると感じていますか?
劔 クリテツさんの音の印象ですか……とにかく、いろいろやる人ですよね。音楽的にも偏差値が高くて、キム(前ドラマー)とやっていた頃は小難しいことをすべてクリテツさんに任せていました。そのスタンスは今も変わってないかな。あら恋のライブアレンジ面はクリテツさんが担っている要素も大きいですよ。
――「キオク」に収録された「Going」のように、バンドを意識しつつもハウス路線にいったことがありましたよね。クリテツさんがライブでもシンセサイザーを担当されていた頃です。あの頃はバンドとしても転換期だったのでしょうか?
劔 そうですね。池永さんが「ダンス・ミュージック」と言い始めて。だけど、キムはそういうジャンルが得意ではなかったんですよね。それはキムの悩みにもなって。GOTOくんに交代したことで、ダンス・ミュージックという部分はより明確になった感じですよね。ちょうど「Going」はその過渡期の楽曲で。
クリテツ キムとGOTOくん、どっちの時期もやっているしね。
――それから2015年に、キムさんが脱退されることになりました。
クリテツ 早いねぇ~!
――脱退自体はスムーズに決まったんですか?
クリテツ でも、キムはキムで一度決めたことは譲らなかった。
――とはいえ、発表自体がわりとあっさりしたものだったので、驚きました。
クリテツ 良いように解釈すれば、そういう美学なんです。もちろんキムが辞めたことで離れたファンもいるし、逆にGOTOくんが入ったことで新たにファンになってくれた人たちもいる。僕自身もファンだったバンドにメンバーチェンジがあると、「えー」となるので、ファンの人たちの気持ちもわかる。ただそこで止まっていられないというのもありますから。
バンドの雰囲気は、全日本プロレスから新日本プロレスに変わったみたいな感じ
――それからGOTOさん、ベントラーカオルさんの加入が発表されて。
クリテツ ウーネリーUHNELLYSのkimさんが主宰するセッションイベントがあって、そこで知り合ったんです。ごっちゃん(GOTOの愛称)はあら恋のファンでもあったので話は早かったですね。キムとはタイプも違うし、合わせるまではどうなるかわからなかったけど、やってみたら「良いんじゃない」ってことで加入が決まりました。
劔 一方で、ベントラーカオルは僕が誘ったんですよ。
クリテツ そうだったんだ?
劔 知人から聞いた経済学的な概念なんですけど、人が減ったときは、その減ったときよりも人を増やすのがセオリーだという考え方があるそうなんです。それはなるほどなと思って。だったら、この機会にドラムを入れるだけではなく、思い切ってキーボードも新たに入れてみようと。その中で名前が挙がったのがカオルくんだったんです。
――どうしてカオルさんだったんですか?
クリテツ ジャンルよりも、マインドが合うか合わないかの問題ですよ。
劔 そう、マインドは大きいですね。
――劔さんはベーシストとして、GOTOさんのプレイというのはどのように捉えていますか?
――そこはドラマーありきな部分が大きいということでしょうか?
クリテツ そうそう(笑)。
劔 速いほうがGOTOくんのノリに合うってことで。
クリテツ 特に「前日」はスピードアップしたので。あの曲、劔さんのベース・ソロがあるんですよ。ただでさえ指弾きだからしんどいソロなのに、テンポも上がるという。
劔 あの曲はねぇ、スゴいんですよ。ほとんど指が休むことなく、ずっと速いBPMで7〜8分やり続ける。あれは気合が必要ですね。しかも盛り上がる曲なので、大体ステージの後半で披露するからキツい。昔、ワンマンの時、手が1.5倍くらいになったことがあるんですよ、腫れて。
——池永さんも言ってました。
――カオルさん、GOTOさんが加入してから1年半以上経ちましたが、あら恋の音は変わってきたと思いますか?
劔 新日本プロレスみたいな感じですよね。
クリテツ あぁ、確かに全日本プロレスから新日本プロレスに変わったみたいな感じはというのはあるよね。元々は、国際プロレスみたいなバンドでしたけどね(笑)。
――エンターテイメント感、メジャー感がより出てきたってことですかね。
劔 どんどんフレッシュにはなっていますよね。
クリテツ でも、あんまりオレたち演奏に関しては俯瞰で見ていないよね。
劔 いや、そんなこともないですよ。
クリテツ そうなの? 劔くんは黙々とやっているイメージが。
劔 うん。それはそのほうがバランスが取れるからですよ。昔はね、あら恋のハードコアバンド的なところを僕が担っていた部分もあったんですけど、今は黙々とやっていますね。
クリテツ 僕はもっと前に出てほしいですけどねぇ。というか、みんな前に出れば良いんですよ。今以上に(笑)。
キャリアを重ねるごとに曲のテンポが速くなってるのは、僕らとラモーンズくらいですよ
――さて、ではベストアルバムのお話も。20周年ベストを作る話はいつ頃から?
劔 20周年というのも最近明らかになったくらいですからね。
――普通、20周年のベストと言ったら、過去の曲をそのまま収録するものですが、敢えて全曲リアレンジ、新録音になっています。
――新録音では、ドラムとベースを初めて一緒にレコーディングしたそうですが、全然違いましたか?
劔 親睦というか、やれることはだいたいやれた感じですね。
クリテツ 12月はライブも多かったんですけど、劔くんとごっちゃんのレコーディング期間でもあったので、演奏がやたらタイトになった印象がありましたね。
劔 でも、久々にやった「トカレフ」とか、完全に忘れていましたね(笑)。フレーズも、昔のものとは勝手に変わっちゃっているんじゃないかな。あら恋の場合、レコーディングのときは曲が完成していないうちに録音するんですよ。いろんなテイクを録って、そこから池永さんが編集していくので。だから、レコーディングして出来上がったものを、ライブ用にまた直していくみたいな感じなんですね。昔の音源を久々に聴くと、今ライブでやっているフレーズとはけっこう違うんです。でも、無理やり昔の感じに戻すのではなく、今の感じを大事にしました。
クリテツ メロディーとかも、昔と違う部分もありますからね。ライブでやって、最終的に曲が完成していくというか。
——「ハウル風」とか、これまで演奏したことってあるんですか?
劔 あのとき一回だけですね。
クリテツ すごく久し振りで。新曲やっているのと同じですよ。
――もともと、11曲で70分も超えるアルバムになる予定だったのですが、BPMが速くなったことで、60分くらいにまとまったみたいです。
劔 曲が速くなるだけでそんなにも違うんですね。
クリテツ 『シン・ゴジラ』の会議のシーンと一緒じゃないですか(笑)。詰め込んで濃縮させる感じ。キャリアを重ねるごとに曲のテンポが速くなってるのは、僕らとラモーンズくらいですよ、きっと(笑)。普通は遅くなっていくから
劔 どっしりしていきますからね。まああら恋の場合は、メンバーチェンジによって平均年齢は下がりましたからね。
クリテツ 結局、池永監督とキャストみたいな感じですから、キャストのメンツで変わっていくところは大きいですよ。
たぶん、20年やっているバンドにしては瑞々しい
――ライブでいうと、去年の朝霧JAMで大トリを飾られたじゃないですか。池永さん的にもかなり手応えのあったライブのようでした。
劔 えー、そんなこと考えてたんですね。
クリテツ そりゃあいちいち言わないよ(笑)。でも、後悔のないように全力でやってます。
――劔さんもお子さんが生まれて、生活状況はかなり変わりましたよね?
劔 いやー、みんなには迷惑をかけてしまっていますけどね。でももっと気持ちを自由にして、初心に返っていけたらなと。あら恋20周年の節目にね。
クリテツ 暴れてくださいよ。
――まだまだあら恋も、最近流行の文章系日本語バンドにカテゴライズされているくらいですから。
クリテツ でも、逆に流行の中に入っているということは、チャンスということでいいんじゃないの? 確かに、いまだに名前で聴かず嫌いの方もいるでしょうけど、損しているところも得してるところもどっちもあるでしょうから。
――ベストがリリースされた後は、ライブも再開されます。ベストもリリースされたということで、昔のお客さんも新規のお客さまも来てくださるかもしれません。ライブに向けての意気込み、アピールポイントをお願いします。
劔 毎回のライブがね、予算度外視ですから(笑)。
クリテツ 「閉店します!」ってずっと貼り紙してるお店みたいなサービスですよ(笑)。プロレスで例えるなら、電流爆破蛍光灯ピラニアデスマッチくらいのものになっているので。率直にいうと、辞める機会を失った僕たちとしては、今後も何かに突き動かされるように活動し続けるだけですね。
劔 名前でいろいろとイメージされる部分は多いと思います。でも、そこを乗り越えて、まだあら恋を聴いたことがないって人たちに聴いてもらいたい気持ちはありますね。たぶん、20年やっているバンドにしては瑞々しいかも。
クリテツ 池永さんみたいに、ぐるぐる思考を巡らせて、ああでもないこうでもないと試行錯誤する人が、宝石のような音楽を生み出す不思議は、まだまだいろんな人に聴いてもらいたいですね。ベストも、家でじっくり聴くもよし、パーティーでかけるもよし。ライブの時もスピーカーの前で聴くのもいいですしね。踊っても騒いでも、好き勝手に楽しんでもらえればと思います。
Vol.1 池永正二
90年代後半、大阪芸術大学と難波ベアーズという特殊な磁場を通じて生まれた池永正二のユニット、あらかじめ決められた恋人たちへ。拠点も大阪から東京に、メンバーもソロから7人へと時代の流れと共に大きく変動し、拡大を続けてきた彼ら。2017年、ユニット結成20周年を記念し、ついにベストアルバムが発売されることになった。だが、ベストでありながら、全曲リアレンジ/新録音を行うという一筋縄ではいかない内容となっている。公式ホームページでは計4回にわたり現メンバーのインタビューを掲載していくが、まずはベストアルバムの発案者であり、あら恋のリーダーである池永正二のインタビューをお届けする。ベストを出す意味、そして選ばれた12曲について。公式ホームページなので、フレッシュでリアルな関西弁のままの池永語録をご堪能いただきたい。(取材・文 森樹)
プロローグ:過去を振り返ることで先が見えると思った
――ベストアルバムの完成、おめでとうございます。まず、20周年記念プロジェクトとして、ベストアルバムをリリースしようとしたのはなぜですか?
――あら恋としては、2015年にキムさん(Dr)が脱退するという出来事がありましたが、それが過去を振り返るきっかけになったりしたんですか?
――わりと最近は固定されてますけど、基本的にそのスタンスは変わってないですか?
――なるほど。キムさん脱退のあと、新メンバーとしてGOTOさんに加え、ベントラーカオルさんが加入しました、おふたりが入って1年半以上経過しましたが、バンドとしてしっくりきた感覚ってあるんでしょうか?
――GOTOさんの出会いは、新しい展開においては大きかったと。
――そういうイメージというか、ビジョンが見えていたんですね。
――実際、おふたりが参加したことで、あら恋の演奏は安定してますよね。
リアレンジだけどメロディは変えない。それが基本
――では、そろそろベストアルバムの話に入りましょう。今回、アルバムは12曲収録ということで。
――ということで今回は、ファーストアルバム『釘』から順番に、収録された曲についてコメントをもらおうと思います。その『釘』からは「ハウル風」が選ばれました。この曲は当時から代名詞的な楽曲で、CD-Rシングルとして販売もされています。
――確かに、今回のアルバムで久々に「ハウル風」を聴いたとき、複雑なメロディだなと思いました。『釘』をリリースした当時は、よくラストに演奏していましたよね。
――今回やり直した理由は?
――今回、リズム隊は生でやっていますね。
――なるほど。続くセカンドアルバム『ブレ』からは、オープニングに入っている「ヤナガ」と、「迷いの灯」が選ばれています。「迷いの灯」はメロウな一曲ですが、これは全体のバランスを考えてのセレクトですか?
――そういう意味では「迷いの灯」もそうですが、「ヤナガ」も優しく軽やかなDUBソングで。
「トカレフ」は、これからやっていきたい方向性の楽曲
――そこからボロフェスタとの共同イベントや、池永さんが上京するといった出来事も経て、2008年に『カラ』が発売されます。これは現在もDUB PAとして参加している石本(聡)さんのレーベル「mao」からリリースされていて。このアルバムからは「トカレフ」が収録されました。これはバンド体制での活動を本格化させてからもけっこう演奏されていた曲で。
――先を見据える上で、やっておきたい一曲だったと。
――いつそういうタイミングがあるかわからないから持っておきましょうよ(笑)。
――それからライブ音源を再編集した『ラッシュ』もリリースされて、フェスとかにも出るようになりますよね。山中湖であった「sense of wonder」、小さいステージでしたけどトリだったときのライブが抜群のパフォーマンスだったのを覚えてます。
を機にツインPAスタイルになったしね。そういえば松野(絵理)さんも来てくれていたのに、動かせる照明はひとつもなくて、手で直接ライトを動かしてもらってたっていう(笑)。そういう意味でも、今の体制のベースになっているのはあの日のライブやし、あそこからいろんな人に関わってもらえるようになった気がする。今考えると、ものすごく大きいポイントやったね。
“呼びかけて、呼び返してもらう”関係性を作っていきたい
――2010年にはワンマンライブシリーズ「Dubbing」がスタートして、そして2011年、『CALLING』が発売されます。これはPOPGROUP Recordingsからのリリースで、現在のあら恋の代表曲である「Back」、「ラセン」が収録されています。
――この2曲は今でもパフォーマンスされる楽曲ですけど、お客さんの反応が良い、という実感はあったんですか?
――なるほど。ちなみに本作の最後には「calling」も収録されています。これは池永さんにお子さんが生まれたときに作られた曲でしたよね?
――そこからオータケくんが入って、FUJIROCKをはじめとする様々なフェスに出ている中で、「今日」というロング・シングルがリリースされました。ベストには「前日」が収録されています。
――(笑)。続くアルバム『DOCUMENT』からは、「Res」が入りました。明るく激しい、踊って泣ける一曲ですよね。
――『DOCUMENT』にはインスト版が収録されて、のちにライブDVDとCDの2枚組でリリースされた『キオク』に収録されている「Fly feat.吉野寿」も、今回用にリアレンジされました。ボーカルはそのままですよね。
――そして最新アルバム『After dance/Before sunrise』からは「gone.feat曽我部恵一」が選ばれました。
最後に:「あら恋ってどれから聴いたらいいんですか?」ってときに、自信を持ってこのアルバムを薦めたい
――近年、映画の劇伴を何本か経験しましたが、それがアレンジに与える影響はありましたか?
――だから、今回のベストアルバムにも「翌々日」のようなインタールードが存在して。
――今回のアルバムを通してきくと、「ヤナガ」ではじまり、「calling」で終わるんですけど、それがすごくダビーな印象を与えてくれるんですよ。結果的に、叙情派DUBバンドとしての所信表明に聴こえるような内容になっていますね。
――それと共に、バンドがどんどん規模を拡大する過程が刻まれていると思います。
――やっぱり「ハウル風」とか「トカレフ」とか、今のメンバーで過去の曲をやり直したものが特にグッとくるなと思いました。新曲はどこかに入るかと思ったんですけど。
――ああ、確かにアレンジは変わっている部分はありますが、聴きざわりは変わらないように配慮されますもんね。
――mixは今回、西岡正通さんが手掛けていますね。
――ああ、Merzbowはクールで無機質なノイズだけど、K.K.NULLはちょっとあたたかくて肉体的、みたいな?
――ベストアルバムの次は何を考えていますか?