インタビュー企画 vol.2:劔樹人 (Ba)

メンバー個別インタビュー:劔樹人(Ba)

神聖かまってちゃん/撃鉄のマネージャーとして各地を飛び回り、鬼束ちひろとのニコ生番組「包丁の上でUTATANETS」では司会進行として鬼束氏のムチャぶりに懸命に応え、誘われて出演した「エアセックス世界選手権」ではあっさりチャンピオンに輝くなど、音楽シーンに留まらない活躍(=苦労)を見せる多忙人、劔樹人。だが、ひとつ忘れてはいけない。彼には、あらかじめ決められた恋人たちへのベーシストという、プレイヤーとしての顔があることを――。


劔樹人

これまであまり触れられてこなかった、“あら恋”のベースプレイヤーとしての立場や信念に触れようと、劔が所属する事務所パーフェクトミュージックを訪問。深夜にかかわらず快く応対してくれた彼に、まずはその経歴を振り返ってもらった。

「初めてベースを持ったのは高校生のときで。それから大阪の大学に入って、音楽サークルに参加してからバンドを真剣にやりはじめた感じでしたね。そこで結成したのがイデストロイドというバンドで。そのバンドは難波ベアーズに出演していたので、店員として働いていた池永さんとはそこで会ったんですよ」

そこからは店員とバンドマンの関係として、顔見知り程度であったふたり。そんな劔が初めてあら恋のライブを見たのは、扇町にある小さなライブハウス、「DICE」でのステージだった。

「僕の友達が主催していたイベントに出ていて。そこでね、池永さんと結構交流したんですよ。“山本精一さんがイデストロイドをイベントに誘おうとしてたで”と言われて、“本当ですか!”みたいな会話をしたのを覚えています。ちなみにそのときのあら恋のライブは、池永さんがまだ一人でやっていた頃で。ステージを真っ暗にして、頭にヘッドライト着けて傘差して現れて、トラック流してピアニカを弾くというスタイル。あとね、途中でギターを弾いてました。布袋モデルを(笑)」

その後、劔はイデストロイドを脱退後、ミドリへの参加を経て、一足先に上京。だが、上京後もふたりの交流はそれなりに続いていたという。

「上京直前に会ったのを覚えてますね。池永さんは“これから福岡行くねん”って言ってて、“僕は東京行ってきます”みたいな気軽な感じで。向こうはライブ、こっちは移住ですけどね(笑)。それからも、僕が大阪に戻ってるときに、道を歩いていたらバッタリ会ったこともあって、何かと縁はありましたね」

池永が2008年初頭に上京すると、メンバーを探していた池永氏からすぐに連絡があり、劔氏はライブメンバーとしての参加を望まれた。そしてその年の2月から、本格的にライブメンバーとして参加する。

「実際にベースを誘われたのは、ライブがもう一週間前に決まっていたときで。それでライブをやる曲だけを覚えましたね。6曲くらいかな。それからもあら恋のライブがポツポツ決まってたから、そのままヌルっと今まで来た感じです。ただね、いいタイミングやなと思ったのは、当時、僕はアップライトベースしか弾いてなかったんですけど、ちょうど店じまいするレゲエバーがあって、そこにエレキベースがあったんです。もちろん持ち主がいたらしいんですけど、片付ける日まで取りに来なかったので、僕が店長の許可を得て持って帰りました。ケースなんかなかったので、裸のベースを担いでね。それが本当にあら恋に誘われるのと同時期だったし、しかもレゲエバーからもらったベースだったから、これはライブをやらねばあかんなと」

劔樹人ドラムのキムが、大阪時代から“家に風呂を借りに行ったり、ミドリに入るべきか相談したり”するほどの親友ということもあり、メンバーとして馴染むのにはそんな時間がかからなかったと言う。あら恋はその後、年約50本というライブラッシュに入る。ベーシストとして劔も参加することになったが、地方遠征も多く、いろいろな意味で大変な時期だったと述懐する。

「いやー、そのときはザ・貧乏でしたね。あら恋ってライブが多くて、しかも地方でいっぱいあったから、やればやるほど金がなくなっていくという。またね、僕らはどんな場所であろうが、現地集合現地解散というシステムだったので、福岡だろうが岡山だろうが、ライブハウスで全員集合!っていう(笑)。機材車使うのなんてここ最近の話ですからね!」

そんな困窮の時期も乗り越え(?)、あら恋はほぼ池永ひとりで制作した『カラ』に続き、ライブレコーディングアルバム『ラッシュ』をリリース。その後、バンドでの録音作としては初となる『CALLING』の制作に取り掛かる。そこでの劔の立ち位置は明確であった。

「僕はあんまり“これやりたい!”みたいなものはなくて、池永さんの中にあるイメージに沿うだけですね。ここはちょっとDUBにしてくれとか、ここはルートでとか。僕の前にはカミジョーさん(スピードライダーのベーシストで、上京以前のあら恋サポートメンバー)という女性ベーシストがライブに参加していたので、そのフレーズなんかも参考にしながら。『CALLING』以降の曲は、とりあえずスタジオで合わせてから、レコーディングして、ライブしてやっとなんか見えてくるというか。とにかくその頃から曲が長くなりましたね。長いので、ライブでやると間違えないようにするのが大変ですよ」

池永とは長年の付き合いではあるが、劔がメンバーとして関わっていく中で、池永がクリエイトする音楽のどのようなところに魅力を感じるのだろうか。

「池永さんって、インプットしたものをアウトプットする仕方がうまいんですよ。自分が描いていたものを、ちゃんとらしくなるようにクリエイトできるというか。テルミン入れたり映像入れたり、いろんなことをやりたがりますけど、それなりにまとまるんですよね。全部成り行きだと思いますけど(笑)、それを成立させてしまうところがある。池永さんって気が小さいところがあるから、それが音楽にも良い感じに出ていると思いますよ。個人的なことを言うと、池永さんは僕が関わっている人の中では気難しくない方なので、それは非常に助かっていますね(笑)」

劔樹人2009年以降になると、マネージャー業が活発化し、超多忙な中であら恋の活動を並行することになる。だが、あら恋とマネージャー、どっちかひとつに絞るという選択は彼にはなかったようだ。

「全体的にはなんとなく来てますよ。もちろん、僕がスケジュールで迷惑をかけちゃってるところもあるのですが……。ただ、バンドでやってることがいろんなところにフィードバックされるので、なんとかここは踏ん張って、とは思っています。僕自身は、ベースを弾いているほうが、マネージャー業とのバランスが取れると思っています」

そこには、マネージメント業務の面白さを感じながらも、劔のベースプレイヤーとしての強い信念も見て取れる。DUBベーシストとしては先輩にあたる秋本“HEAVY”武士(DRY&HEAVY、THE HEAVYMANNERS、REBEL FAMILIA)氏からの影響も大きいと言う。

「一時は、ベースプレイヤーとして頑張りたい気持ちもありましたからね。今も時折思うんですけど、こういう多忙な時期に耐えることで、いつかはベーシストとしても認められるかなと。これまでもサポートでベースを手伝うって話は結構ありましたし、実際にサポートもしてましたからね。僕もね、一回だけBASSマガジン載ったことあるんですけど、そういう音楽誌に行けなくて、サイゾーさんとか、日経エンタテインメント!さんとかが優しい(笑)。でも、若い子たちも増えてきているので、演者としてのプライドじゃないですけど、負けないようにしたい。ずっと(ベースを)やってるんだって気持ちはありますからね! 秋本氏には、この前イベントで対バンしたんですけど、やはり影響を受けてますよ。ベーシストとしてはもちろんですけど、生き方、男らしさとしてね。もうね、ベースに懸ける決意が、いちいち重すぎるんですよ。それがかっこいいなと思っていて。あら恋は音楽的にはレゲエにこだわらなくなっている気がしますけど、僕はレゲエの精神というか秋本さんの精神というか、そういうものがここに来て響いてますね」

 

あら恋は2010~2011年にかけて、各地のフェスティバルに参戦。徐々にライブバンドとしての評判が高まっていった。昨年はかねてから念願だったFUJI ROCK FESTVALにも出演する。一方で、劔と新代田FEVER店長の発案で震災直後(3月20日)にチャリティーライブを敢行している。

「ロックバンドが主体のフェスだと、まだパッとしない印象があるんですよ(笑)。朝霧(jam)とかFUJIとかTAICO(CLUB)とかはね、ハマるんだなって思いました。もうちょっとKIDSたちにも受けたいところですね。チャリティーライブに関しては、全然思想的なものではなくて。ただ、あら恋でなんかやらなあかんなと思ったんですよね。言葉のないインストバンドだからこそ」

最後に、ワンマンライブ「Dubbing04」への意気込みを聞いた。

「最近はおしゃれな界隈な人が興味を示してくれるようになったので、僕もね、おしゃれして行こうかなと思います(笑)。まあ、あら恋は自分の振り幅としては一番端にあるわけですよ。逆の端には男の墓場(プロダクション)があって(笑)。僕がステージであんなクールな感じでいられるのは、池永さんの作る音楽やパフォーマンスに引っ張られてるからだと思います」

PROFILE

劔樹人 新潟県出身のベーシスト/マネージャー。(株)パーフェクトミュージック所属。ベーシストとしては、イデストロイド、ミドリ、22歳ノ私、シェパード放し飼い、ピングループ、バンドじゃないもん!などに在籍経験あり。

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