インタビュー企画 vol.4:キム(Dr)

キム(Dr)インタビュー

あら恋のメンバーの中で唯一、大阪時代からサポートとして参加しているのが、ドラムのキムである。まるで「打ち込みの音をねじ伏せる(byクリテツ)」かのようであり、ときにはバスドラの位置がズレてしまうほどの力強いドラミングは、その叩きぶりも含めてダイナミックそのもの。常に全力でドラムと向き合うキムにとってのあら恋とは。2月だというのにジャージで待ち合わせ場所に現れたキムに話を聞いた。


キム

「ドラムをはじめたのは、中2の夏休み前くらいですね。あんまり楽器の経験とかがない友達4人と“バンドやろか”って集まって、僕はジャンケンに負けてドラムになりました。誰かに憧れてとかかっこいい逸話はないです(笑)。ただ、すぐに8ビート叩けたので、“あれ、俺できるぞ”と。当時はベンチャーズとB’zをコピーしてましたね。なんでその振り幅だったかはわからないですけど」

生まれは香川県の高松市。よくある仲間同士の盛り上がりからバンドをはじめたキムであったが、ドラムの面白さに目覚めるのにはそう時間はかからなかった。高校に入学してからもバンド活動を続けようと決意したキムは、当時四国~中国地方でシーンが形成されていたという、ロカビリー系のバンドに加入する。

「ロカビリーバンドのドラムは、高校時代の3年間、やりましたね。みんな同い年でした。今でこそ正装はジャージですけど、当時は革ジャンとリーゼントでバシッとキメて。ちょうど、高松とか徳島、海を渡った岡山の方って、サイコビリーとかロカビリーがけっこう流行ってて、ちゃんとシーンがあったんですよ。僕らもバディ・ホリーからはじまり、エルヴィス・プレスリーとかもカバーしてましたね。岡山や徳島にもライブ遠征に行った記憶があります。でも、僕が当時聴いていたのは、ブラーやオアシス、オーシャン・カラー・シーンとかのブリットポップ。メンズウェアのシングルの全部集めたり、ザ・シー・アンド・ケイク聴いてたりとか。メンズウェアとか、久々に口に出しましたけど(笑)」

高校卒業を機に、キムは大阪に移住するためロカビリーバンドを脱退。専門学校に入学する。専門学校は早々にドロップアウトしたものの、学校で知り合った友人と新たなバンド、ヨガタイランドを結成。大阪のライブハウスに出演するようになり、池永とも出会うのだった。

「専門学校のときに組んだのがヨガタイランドというバンドで。僕が東京に出てくるまでずっとやってました。最初は心斎橋のアメ村にあるsun hallとかに出てて。僕らの世代的に、ファンダンゴやベアーズっていうのは、非常階段とかBOREDOMSとかが出てた場所だったからなんか敷居高かったし、一度、ベアーズのブッキングの三沢さん(三沢洋紀。ベアーズの元ブッキングを担当。LABCRYのボーカル)にデモテープ持っていったときは落とされて(笑)。でもそのあとに、友達のブッキングでベアーズに出演したら、それから定期的に出演できるようになりましたね。その頃一緒に良く出ていたのが、劔もいたイデストロイドやペンペンズ(オシリペンペンズ)、ZUINOSHINっていう、のちにゼロ世代と呼ばれるような人たちで。それで、ベアーズで働いていた池永さんとも知り合いました。ちょうど22~23歳の頃かな」

キムヨガタイランドとしての活動が活発となる一方で、池永とも共に演奏するようになるが、最初はあら恋ではなく、池永とカミジョー(スピードライダー)も参加していたmimiへの参加であったという。

「池永さんはゼロ世代よりはちょっと年齢が上で、やってるバンド名もやたら長いし、聴いてみたらノイズやし(笑)。ライブでは傘を振り回している。“なんや、あの人”って(笑)。それでもベアーズに出る機会も多かったから仲良くなっていって、僕が最初に手伝ったのは、当時、あら恋とは別に池永さんが参加していたmimiというバンドのドラムでした。サポートで一回入ってからはずっとやっていて、そのままあら恋バンドにも入って、ボロフェスタ(ゆーきゃんらが主催する、京都のインディペンデントフェス)にも出ましたね。だから、今のメンバーの中では一番在籍期間が長いですね、大阪時代からやってたのは僕だけやから」

キムはその後、ヨガタイランドの活動停止と同時期に、東京へ移住。直後に上京してきた池永から依頼され、再びあら恋のドラムに復帰することを快諾する。そしてベースには、これまで同じシーンで活動しながらも、一緒に演奏したことがなかった劔をベースに勧誘。さらにテルミンのクリテツを加えて、あら恋の新体制が整ったのである。

「劔は前から一緒にバンドやりたいと思っていたので、彼が東京に来ているのを知ってたから、ちょうど良い機会でしたね。ただね、初めてスタジオ入って音合わせしたときは、“モコモコしてんな~”って思いました。ベースの音が。まるで劔の髪の毛みたいな音なんですよ(笑)。それはなんか印象深いですね。でも今改めてメンバーのラインナップを考えたら、理想的な人たちが集まってると思います。テルミンだけじゃなく、どのポジションでもできるクリテツさんの存在はすごく助かるし、いいアクセントになってますよね。だから僕としても一緒に出来て嬉しいというか、照明も映像も合わせてチームあら恋になったなと思います」

その後は各地でライブをこなし、もはやサポートの域を超えたレギュラーメンバーとしてあら恋のバンド・サウンドを支えている。そんなキムが感じる、あら恋の、そして池永の魅力とは何なのだろうか。

「池永さんの音楽はね……誤解を恐れずに言えば、むちゃくちゃ暗いね(笑)。一緒にスタジオ入って、曲を聴きながらアレンジを考えているときは不思議とそうは感じないんだけど。最終的に作品になってみると、暗いし、悲しい。池永さん自体は、本当に明るいお兄ちゃんなんで不思議だし、そこが面白いところでもあるかな。あともうひとつ面白いのは、一緒に音を作ってるとき、基本的に擬音で説明されるんですよ。“ここはもっとバァーってなってほしいねん、キムくんが”“えぇっ、ドラムじゃなくて俺が!?”みたいなことの連続で(笑)」

キムあら恋がバンドで精力的に活動したことで、4枚目のスタジオアルバム『CALLING』は、初めてバンド・サウンドでレコーディングすることになった。これまでもライブではバンド形態を見せつつ、ソロでの制作にこだわっていたあら恋からすれば大きな変化であったが、メンバーの立場から、キムはこの変化を以下のように感じていた。

「バンドでやっていこう、って決めてやっていたわけではなくて、(ライブの)数をこなしていくうちにそうなっていったというのはありますね。これまでのあら恋は、池永さんがトラックメイカーで、あの人が曲を作って、ライブではそこに生楽器を乗せるって感じでしたけど、池永さんが作る曲のイメージ自体も、バンドを想像したものになっていったんじゃないですかね。「Back」とか「ラセン」は全編にギターも入ってるし、今までになかった、バンドでの演奏を前提としたタイプの曲ですからね。元々、池永さんはめっちゃギター・ロック好きですからね。ダイナソー.Jrとか。それがようやくあら恋でも形になったんじゃないですか」

上京以降、池永の曲作りにも変化があったように、キム自身にとっても転機となる場面があったという。それはバンドにも勢いがあり、既にライブシーンで注目を浴び始めていた2010年6月に開催された、リキッドルームでのイベント『NAKED SITY』であったという。このライブで、キムは今までの演奏スタイルが通用しないことを改めて痛感したという。

「あのときはびっくりするくらいダメで。それまで200~300キャパのところがメインだったから、ある程度生音も出るし、それで音が埋まるんですけど、リキッドクラスになると会場も大きい、客も多いしで。まあびっくりするくらい通用しませんでした。そこから僕も含め、みんなの意識も変わったと思います。単純に勢い任せでやるのはあかんと」

奇しくも今回のワンマンライブ「Dubbing04」の会場は、かつて苦渋をなめたリキッドルームである。各地の大型フェスも体験し、豪雨な強風、真夜中など、様々な環境の中でライブを重ねてきた彼らにとっても、リベンジには絶好の機会と言える。

「Dubbingも4回目なんで、武士(もののふ)になってひたすら練習をせねばいけませんね。今は、スケジュール的に問題ない場合は限りなく練習してますしね。せっかくワンマンなんで、面白い流れにはしたいという想いは全員にあるから、それを形にして、これまで以上の物語感を出せたらと思います。ワンマンって2時間超えますけど、意外にやってみたら大丈夫なんで。僕自身としては、これは昔からの信条なんですけど、ライブ終わったら身体から何も残らんようにします」

最後に、4月11日に発売されるロングEP「今日」についてのコメントも伺った。

「年末に大阪でドラムを録音しましたね。あら恋はデモの段階から完成に至るまでの間に相当アレンジも変わるし、尺も変わるので、こちらはなんとなくの着地点を探りながら叩いています。いつもドキドキしてますね(笑)。今回の作品で印象的だったのは、2曲目の「翌日」ですね。この曲には後半にフルートのような高音が入っているんですけど、最初に聴いたとき鳥肌が立ったんですよ、悪い意味で(笑)。でも、完成したのを聴くとハマってるんですよね。あれは不思議だなと。Dubbingでもやるので、是非聴いてもらいたいです」

あらかじめ決められた恋人たちへ

PROFILE

キム(Dr.)/キム・ニールセンの名でも活動。過去にはヨガタイランド、ズボンズに在籍した。ジャージもしくはライダースジャケットを大体着用している。強面だが、フレンドリーな人柄で有名。

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