インタビュー企画 vol.3:クリテツ(Per./テルミン/鍵盤ハーモニカ)

クリテツ(Per./テルミン/鍵盤ハーモニカ)

あら恋のサウンドに彩りを添えているもののひとつに、テルミンがある。通常、ロックバンドでテルミンが使われる場合はあくまで効果音的な扱いが多いが、あら恋ではベース、ドラム、鍵盤ハーモニカと対等な立場の楽器としてサウンドの核を形成しており、確かな存在感を示しているのだ。そして、あら恋にテルミンを持ち込んだ人物こそ、クリテツである。近年のステージではテルミンだけでなく、パーカッションや鍵盤ハーモニカも奏でるあら恋「上手の男」「ステージ右側の男」であるクリテツに話を聞いた。


クリテツ

「元々はボーカル、ドラム、鍵盤なんかをちょっとずつって感じで。sugar plantのヘルプでドラムを叩いていたりとか。それから、ギューンカセットといぬん堂からそれぞれCDを出しているブランというトリオバンドでドラムをやっていて。ブランでは、ギューンカセットとの繋がりもあって、半年に一回くらいベアーズに出ていたのかな? そこでベアーズで働いていた池永君と知り合ったんだよね」

それから初めてあら恋のライブを観たのは、2003年に池袋のLIVE IN ROSAで開催された「ギューンカセット対OZディスク」だという。東京と大阪のアンダーグラウンドバンドが対決するオールナイトイベントで、当時大阪では既に話題となっていた女性デュオ・あふりらんぽなども出演していた。

「池永くんがね、傘差してステージに出てきて。それからMTRでノイズ流しながら絶叫していたんですよ。いやー、言葉にならない鮮烈な印象を受けましたね(笑)。そのあともmimi(池永がメンバーで参加していたバンド)とブランが対バンしたりで、何かと交流はあって。それからまたちょっと経ったときに、池永くんが、“今度バンド編成であら恋をやりたいと思う”って言ってたから、“俺もテルミン演りたい”って返したら “やってやって!”って即答だったのね(笑)。当時はお互い特に考えもなかったんだろうけど(笑)、そのまま参加することになって」


クリテツがテルミンを習得したのは、映画『テルミン』に影響されてのことであった。そこからはほぼ独学で演奏法をマスターした彼は、かつて在籍したブランでもレコーディングで使用したのを皮切りに、テルミン奏者として活動を開始。現在では東京都のヘブンアーティストとして、各地で演奏活動も精力的に続けている。

「映画『テルミン』を観て衝撃を受けて、衝動的にテルミン買ったんだけど、最初の一年くらいは何もしていなくて(笑)。知り合いの企画でキング・クリムゾンの“レッド”を演奏することになったから、これはまじめに練習しなきゃいかんなと。一応教則ビデオを観て、あとは独学でね。最初にあら恋で演奏したのは、2007年くらいの、新宿JAMのイベントに出たときかな。とりあえずその日やる曲を事前に教えてもらって、当日JAMのスタジオで練習して本番っていう」

2008年に池永上京後は正式にライブメンバーとして加入。ソロでの演奏がメインとなっているアルバム『カラ』にもテルミンで参加した。

「最初の一~ニヶ月間くらい、池永くんが上京したのは知らなくて(笑)。でも連絡が来てからは、ほぼ毎回テルミンで入るようになりましたね。だからメンバーになってからは今年で五年目になるのかな。ドラムのキムとは、彼がヨガタイランドってバンドをやってたときから知り合いだったし、他のメンバーとのコミュニケーションもスムーズに出来ましたよ」

クリテツ

その後、ライブを重ねる中で、クリテツはテルミンだけでなく、ジャンベや鍵盤ハーモニカも使いはじめる。これにより、クリテツはライブ中に3つの楽器を操る立場となった。

「最初はダラぶッカっていう小さい打楽器を使っていたんだけど、のちにジャンベも使い始めましたね。それが上手くはまったと言うか、テルミンだけだと曲によっては手持ち無沙汰なんで。鍵盤ハーモニカも、そんな難しいことやってるわけではないからね。ただ、鍵盤ハーモニカをもう一人鳴らすだけでも、パフォーマンスに奥行きが出るでしょ? 僕はひとりで大道演奏をやっているから、やっぱりバンドとしての見た目も気になるというか、ライブを上手く見せたいんだよね」

あら恋のライブは、池永の作る打ち込みのトラックにバンド演奏を合わせる方式のため、モニターから返されるトラックの音に合わせて演奏する必要がある。確実に音の拾えるイヤーモニターを使うのが通常なのだが、あら恋はつい最近までライブステージのモニターで音を拾っていた。それはプレイヤーとしては難しくもあり、楽しくもあったという。

「何が一番面白くてあら恋をやってたかというと、打ち込みメインなバンドなのに、最初は誰もイヤモニしてなかったんだよね(笑)。演奏にオケ(トラック)を合わせてやる!ってくらいの感覚で全員がやってるというか。去年くらいから思い切ってイヤモニを導入したんですが、“俺たち日和ったな”って話をキム(Dr.)としましたね(笑)。オケを軸に演奏するバンドって最近では結構普通だったりすると思うけど、あら恋はそういう気持ちがなくて、強引にねじ伏せようとする荒々しさがある。オケの電子音との絡みが~って語っている感想なんか聞かないもんね(笑)。でもって、インストバンドでオケを流しているのに、池永くんみたいにあんなに叫んだり暴れたりする人は世界的に見てもいないじゃないですかね? お客さんも、そういうところが面白いと感じているだろうし。本当は叫ぶ必要がないといえばないわけですけど、あら恋は叫ばないとね。そこに何かがあるんですよ」

クリテツあら恋では印象的に使われているテルミンだが、『カラ』時代の楽曲では、池永がひとりで完成させたトラックに、テルミンで音を重ねる方式であった。その後、バンド形態での活動が基本となってからは、池永から届くデモを聞いてフレーズを構築し、そこからやり取りする方式に変わっていったという。

「最初はまず自分でフレーズを考えるんですけど、そこで池永くんに“ここは弾かないで”とか指示が入るわけです。その辺は映画的ですね。こっちでデモっていう脚本をもらって、それに合わせて演技(演奏)して、そこから演出家の池永さんのチェックが入って、整えていくという。そう考えると、僕らは俳優みたいなもんです(笑)。レコーディングでも、僕は自分のエゴはあんまり出さないというか、最終的に池永くんが決めたやつでGOします。そしたら自然とああいう世界観になるんですよね」

あら恋はやはり池永をバンマスとしたユニットであり、基本的には池永の考える世界観を再現する、との共通認識がメンバーには感じられる。そのためか、バンドの中で感情的対立が起きたという話はほとんど聞かないし、ある意味では非常に“大人”なバンドである。一方で、バンドのあり方に関しては、メンバーでその方向性を模索したこともあった。

「メンバー同士での話し合いは良くしていますよ。だいたいはどうでもいい話ですけど、あら恋に何が足りないのかっていう話はけっこうしてきましたね。その足りないものっていうのは、結果的にはライブをやることで解消していったり、新作を作ることで変わっていったりしたんじゃないかと」

 

さて、4月6日のワンマンライブ「Dubbing04」までもう少し。「Dubbing」シリーズでは、対バン形式のライブとは違い、2時間以上のロングセットが披露されるのが魅力のひとつであるが、クリテツはこのワンマンシリーズを、どのように捉えているのだろうか。

「簡単に言うと、短距離走と長距離走みたいなもんですよね。長いワンマンだとペースを考えるというか、“この辺からアげていこう”みたいなことは意識しますね。僕自身がDubbingで印象深かったのは、WWWでの「Dubbing03」のときに、テルミンのソロパートで影絵みたいな映像を重ねてくれていたときかな。ライブ終わったあとに写真や映像で観たんだけど、こんなかっこいい感じになってるのかと。一度、僕も客として観てみたくなりました。映像や舞台装置の仕込みなんかは池永くんやほかのスタッフがやってくれるので、僕はとにかく、演奏に集中していますね」

リキッドルームで行われる「Dubbing04」は、これまであら恋のライブに来たことがない人に、特に観に来てもらいたいと語る。ワンマンでしか見られない演出ももちろんだが、各メンバーの演奏もじっくり堪能してほしいとのことである。

「今回のライブも、これまで観に来たことがない人にたくさん来て欲しいですね。TSUTAYAでCDを借りてくれた人や“Back”のPVを観てくれた人が来てくれると嬉しいです。池永くんはあら恋で「音楽で映画をやりたい」って常々言っているんですが、まさにそれが観られると思うので。池永くんだけじゃなくて、マネージャー業と掛け持ちしている劔くんも、打ち込みドラムをねじ伏せるキムくんも、じつは相当なプレイヤーとして存在感があるので。いわゆる普通のロックバンドではないので、はじめての人はどう反応していいかわからないかもしれませんが、じっくり観ても良いし、暴れてもらっても全然構わないです。好きに楽しんでもらえれば。ただ、音程が変わっちゃうのでステージに上がってテルミンに近づくのは控えてもらえればと思います(笑)」

クリテツ

PROFILE

クリテツ/あら恋ではテルミン、パーカッション、鍵盤ハーモニカを担当。普段からテルミン奏者として活躍しており、井の頭公園などで不定期に演奏中。また、吉祥寺のロシア料理店「カフェロシア」でも演奏活動を行なっている。昭和の特撮やお笑いに造詣が深い。

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