インタビュー企画 vol.5:石本聡(DUB PA)

石本聡インタビュー

池永をバンマスとするあら恋は、ステージに立つメンバーのみならず、PA、照明、映像らその他のスタッフを含めたユニットとして機能している。その中でも特殊と言えるのが、専属PAがふたり存在することである。ひとりは各楽器の音量・音質を整え、その会場に適した“爆音”を提供するメインPAの宋基文。もうひとりが、“飛ばし”と呼ばれるDUBmixをリアルタイムで行う石本聡である。石本は、あら恋3枚目のフルアルバム『カラ』、そしてライブ音源を再構築したフェイクメンタリーアルバム『ラッシュ』をリリースしたレーベルmaoのオーナーであり、自らもリーダーバンドであるpasadenaやMAS.(DUB PA)といったバンドに参加するギタリスト/PA/レコーディングエンジニアでもある。まずは、maoレーベル立ち上げから話を伺った。


石本聡
「レーベルはじめたのは2002年で。その頃、東京でもちょうどエレクトロニカが出始めた頃で、たまたま知り合いに誘われてそういうイベントに遊びにいったら面白くて。それまで僕はティーンエイジ・ファンクラブやダイナソーJr.みたいなギター・サウンドをやっていたんだけど、ちょっと煮詰まりを感じていたんです。当時、トータスなんかのポストロックも出てきたから、徐々にそっちの方に自分の音楽もシフトしていって。そうすると、今まで自分に周りにいなかったタイプの人たちが増えてきて、“みんなアルバムが出したいけど出すレーベルがない”みたいな話になって。じゃあ俺がやってみようかなってことで、maoをはじめました」

maoではポストロックやエレクトロニカに留まることなく、石本独自の視点から良質なアルバムを年間5~6作のペースでリリースしていた。池永と出会うのは、彼が上京する2008年。それ以前にも既にあら恋の音源は聴いていたという彼は、会ったその場で、すぐに制作の協力を申し出る。

「あら恋のことは前から知っていて、ファーストの『釘』もセカンド『ブレ』もチェックしていて、一リスナーとして愛聴していました。それで池永君が上京後に、うちのレーベルのバンドと【月見ル君想フ】(青山のライブハウス)で対バンしたときがあって。彼はそのときDJで出演していて、“なんか手伝えることがあったら是非”みたいな会話をしました。そしたら後日連絡がきて、一緒にやりはじめたのかな。それが2008年の3月~4月くらい」

すでに池永が録り貯めていた複数の楽曲をまとめる形で『カラ』の制作がスタート。直後にあら恋のライブを初めて体感することになったが、その時の衝撃は今でも印象に残っているそうだ。

「制作を一緒にはじめてから、自分がやっているpasadenaのレコ発に出てもらったのね。そのときは池永くんがソロで演るものと思っていたら、キム君と劔君がいてさ(笑)。しかも池永君は“あああああぁぁぁ”って絶叫してるし。そのときのインパクトが凄かったから、『カラ』をリリースするときも、“バンドでレコーディングしたほうがいいんじゃない”って言いました。でも強硬に拒まれて(笑)。当時、池永君は、ライブとCDは別物として考えていましたね」

石本がPAとしてあら恋に関与しはじめたのも、『カラ』制作中であった。メンバーが揃い、バンドでの活動を本格化させていた池永の依頼を受け、その音作りを担うようになる。

「ライブのPAをやりはじめたのは、『カラ』のリリースの前かな。2008年は、東京でのライブと、山中湖でやったフェス【sense of wander】だけ参加して。だけど、ライブに参加していくうちにバンドとしての凄みとかみんなの本気度とかがビシビシ伝わってきてね、レーベルのオーナーが手伝いでPAしてます、っていうのはダメなんじゃないかと思い始めて。それで2009年の年明けから全国各地に行くようになったのかな。宋さんが加入するまでは、全体の音を作りつつ、音の飛ばし(DUBmix)もひとりでやってましたね。宋さんが入ったのは、デニス・ボーヴェルとマッド・プロフェッサーみたいに、全体のPAと飛ばし専門の人がふたりでやるスタイルがあるのを池永君が聞きつけてきたらしくて(笑)。それで僕はDUB処理を、宋さんが全体のPAを担当するスタイルになりました。僕は飛ばしの方に集中できるようになったし、宋さんはPAが本職の人でとにかく低音を強調していくから、よりエグい音作りができるようになりましたね」

石本聡叙情派エレクトロ・ダブ・ユニットと冠するように、あら恋にとってDUBは必要不可欠な要素であるが、ライブ会場でのDUB処理を担当する石本は、どのようなコンセプトを持ちながら本番に臨んでいるのだろうか。

「ステージ上にいないけど、楽器弾いているのと同じ気持ちですよ。みんなの演奏を聴きながら流れを掴んでいって、池永君がどういう想いでこの曲を作ったのかをイメージしながら、その感情をDUBで膨らませてお客さんに届ける。そういう役割かな。(会場の)サイズはあんまり関係ないんだけど、2011年はフェスがすごく多かったから、セットチェンジの短い間に音を作らなきゃいけなくて、随分と鍛えられました。ただ、池永君に鍵盤ハーモニカと叫び用にマイク2本立ててるんだけど、その日の気分でどっちで叫ぶのか変わってくんでね、それを卓からじーっと見つめて追いかけながらディレイかけるのが大変(笑)時々はずしちゃうんだよね、「あ、間違えた!!」って」

以前から池永のコンポーザーとしての能力を高く評価していた石本だが、『カラ』や『ラッシュ』のリリース、そして積極的なライブ活動の中で、その人間性も含めたパフォーマーとしての姿にも魅了されていった。

「まず池永君の作る曲って、いろんな感情が入っていて。インストなのに、うたものみたいに感情の起伏がきっちり描かれていてダイレクトに音から伝わってくる。そういう彼のメンタリティに共感する一方で、ライブではその緻密に作ったサウンドをチャラにするくらい無茶するでしょ(笑)? ああいうところも、自分の好きだったロック的な部分と繋がるし、コンポーザーとしてもパフォーマーとしても信頼してますよ。上京した頃はね、もうちょっとDUBバンドって部分にこだわっていたというか、そこを崩さないように意識していたけど、やっぱり、『カラ』や『ラッシュ』を出して、ライブの評判も知名度も上がってきたことで、自信が付いてきたと思いますね」

ラッシュのリリース後、ついにバンド・サウンドでのレコーディングが行われた『CALLING』は、DUBバンドというカテゴライズを飛び越えるような、池永の音楽センスや趣向が隅々まで反映された作品である。その作品を象徴する一曲目“Back”をはじめて聴いたとき、石本もかなり驚いたという。

「“Back”のデモが出来たときにびっくりして、池永君がこういうのを好きなのは知ってたけど、これはあら恋的にアリなのかなぁ?って思いましたね。でも、ライブでやったら全然問題無くてかっこよくて、それは衝撃でした。ああ、これはひとつ上のステップに行ったんだということを実感しましたね。実際、あの曲はいろんな人が評価してくれたし。やっぱり、『ラッシュ』くらいまでは、感情を内に込めてそれから爆発させるっていうのが魅力だったと思うんだけど、『CALLING』はちゃんと外に向いていて、はじめて通して聴いたときは、ウルッときましたね」

石本聡一方で、あら恋のバンド編成――ステージ上のメンバーのみならず、照明やPA、さらに映像作家を含めたユニット(組織)として動く形態も、あら恋にとって良い方向に作用しているのを感じているそうだ。

「メンバー間のあり方はいい意味で大人ですよ。ステージでは4人、宋さんや(照明の)松野さん入れれば7人のチームだけど、みんなこれまでに散々冷や飯も食ってきて、酸いも甘いも噛み分けてるからね(笑)。バンド幻想なんてない(笑)。一緒にやるのが楽しい、それだけで続けられるほど楽ではないとわかっているから、いい距離感がある。ただ、基本的には池永君のやりたいようにやってくれればOK!と。そういう信頼感はみんな持ってるんじゃないかな」

その信頼感は、3.11の震災を経て、より確かになったと語る。特に新代田Feverで行なった2011年3月20日のチャリティーライブは、石本の音楽人生の中でもかなり重要な日になったという。

「最初は劔君が何かやらなきゃいけないということで、アコースティックライブの準備していたんだけど、池永君からメールが来て。“こういうときだからこそいつもどおり爆音でやりたい”と。あれはね、すごく勇気をもらいました。お客さんにもすごい緊張感があった中で、オープニングに「Back」をやったんですけど、そのときの光景は今思い出しても涙が出てくる。でも誤解してほしくないのは、偉そうなことは誰も考えてなかったってことです。みんな不安だから、はやくみんなと何かやりたいという衝動に突き動かされていただけなんですね。それはすごくロックっぽい動きというか。社会運動とかそういう方向にいかないで、ただ音楽を鳴らすってことだけにまとまってやれたのが良かったですね。今年のこの前feverでやったライブもそのスタンスは一緒でしたし。」

4月に発売されるシングル『今日』は、そうした震災以後の日々を描写したものだが、怒りや悲しみよりも、希望や癒しに満ちたものになっている。PAの立場から震災以後も池永の活動を支えてきた石本も、そうしたムードは感じ取っている。

「去年の6~7月くらいに池永君が作った“ムダイ”っていう曲があって。その頃はね、池永君自体も悶々としているというか、まだ怒りがあったよね。今回の“前日”、“翌日”というのは、その先に行っているというか。『CALLING』というアルバムを作ったときのモチベーションが、震災で一回吹き飛んじゃって、それからここまで再生してきたって感じがします。“ムダイ”から『今日』を聴いているとね、そういう池永君の心の変遷が感じ取れますね。それは彼個人の問題じゃなくて、僕自身も含めて、みんなそういう気持ちの揺れ方をしていたんじゃないかな」

そして4月6日、あら恋はワンマンシリーズの第4回目『Dubbing04』を開催する。最後にこのワンマンライブと、その後のツアーに懸ける思いを聞いてみた。

「ワンマンはたっぷり演奏できるから、あら恋の世界観を120%堪能できると思います。特にリキッドは映像なんかもかなり大仕掛けになるので僕も凄く楽しみですね。あとリハもたっぷりできるから、音響や照明もしっかり作り込めるし。そうそう、MXRのPITCH TRANSPOSERっていうマッド・プロフェッサーやDUB MASTERXも愛用している古いエフェクタ買ったんですよ。それを導入するのも楽しみですね。宋さんも含めて結構な数の機材をPA側でも持ち込んでいるので、DUBとか音響に興味のある人は卓側もチェックしてみると面白いかもです。あとは池永君の叫びにちゃんとついていくことかな、課題は(笑)」

PROFILE

石本聡(DUB PA) maoのレーベルオーナーを務めて早10年。今年は、ヤング・ダブバンドと銘打つTamTamのマネージメントとリリースも担当し、音楽シーンに衝撃を与える予定である。飼い猫の名前は駒緒。

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